ケーススタディ4

時を意識
させる住宅

 竹原さんの住宅は、さまざまな局面で、そしてさまざまなスパンで時間の存在を意識させる。
 この1階では各部屋の敷居に角材が使われ、それをまたいで出入りする。つまり結界がつくられているのだ。「こんにちは」と入り「さようなら」と出ていくのは、古来からの日本の約束事。またぐという一瞬の行為が、礼儀作法を思い出させる。
 また大きなトップライトを伴って屋根から突き出したロフト2は、白い内壁に反射した陽光を2階へと注ぎ込む。その光は外部の様子を映し、天候、時間帯、季節によりいろいろにうつろっていく。このロフトと外室の存在は内外の距離を縮め、自然の変化をリアルタイムで感じることができる。
 さらに象徴的なのが大黒柱の金輪継ぎだ。それは2階床から数十㎝ほどのあえて目立つところに施された。日本建築の重要なポイントのひとつは、時代を経て木が朽ちていったときに入れ替えられること。ここでは壁に隠れることなく単独で立っている柱さえ替えられることが示された。建主のお子さんには、いろんなものが力を合わせて家族を守っている、どこかが欠けてもまた足してつなげていける、と説明したそうだ。子どもの成長とともに家も重みを増してくる。
 外壁の下見板張りも同様。グレーに変色していく板は雨のかかり方によって一時的にムラが出るが、10年もたてば均一になじんでいく。もちろん、傷んだときは少しずつ替えて直せる。
「日本人は手入れをすることを知っていた。それが『和』の精神ではないか。『和』とは畳や障子の入った部屋をいうのではなく、その精神を受け継いでそれを変えていくこと」と竹原さん。そこにあるのは、この国で太古から続く膨大な創意の蓄積だ。それを次の一瞬から数百年に至る時間へと投影することにより、自由な造形の地平は広がっているのだと実感できた。


>>「緑町の家」の1階平面図を見る
>>「緑町の家」の2階平面図を見る
>>「緑町の家」のロフト階 平面図を見る
>>「緑町の家」の断面図を見る

  • 前へ
  • 4/4
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら