
いきいきとした、懸魚と襖と下見板
作品/「本棟の家」
設計/新田有平+丸山美紀
長野県を代表する江戸時代以来の民家形式「本棟造」。その本棟造を継承してつくられたのが「本棟の家」だが、継承ばかりではない。懸魚や襖や下見板などの伝統的な部位が、現代的な解釈でいきいきと用いられている。
取材・文/大井隆弘
写真/山田新治郎
小田急線の鶴川駅から少し歩いた場所に、武相荘(ぶあいそう)と呼ばれる記念館がある。かつて白洲次郎・正子夫妻が暮らしたこの建物は、田の字型の間取りに茅葺き屋根をのせた、典型的な民家の姿をしている。内部も太く黒光りした柱や梁が全体の基調をなし、天井板も真っ黒でとても力強い印象を受ける。しかし、そこは一方で、白いタイル敷きの土間、ひょうたん形の引き手が付いたモダンな柄の襖、さらに夫妻が集めた家具や工芸品の数々が集まり、住み手の好みを感じる空間でもある。ものは多いが、決して散漫にはなっていない。これは、民家全体から出た力強い雰囲気が、自由な部分をしっかりと包み込んでいるからだろう。強い全体性と自由な部分。この「本棟の家」も、そうした言葉から説明してみたい。
「本棟の家」
という名前
長野県安曇野市。広い空をひんやりと感じさせる藍鼠色の山脈、あたり一面に広がる田畑のなかに、こんもりした集落が点在する。「本棟の家」はそうした集落のひとつに建てられた新しい住宅である。敷地の脇には清らかな水路があり、裏手の屋敷林を背景に、切妻屋根がおおらかなたたずまいをしている。この住宅を設計したのは、新田有平さんと丸山美紀さんが主宰するマチデザインという設計事務所。丸山さんの祖母と叔父夫婦のために、もともとあった主屋を解体して新築したものだ。
作品名にある「本棟」とは、長野県を代表する民家の形式、本棟造からきている。本棟造というと、梁間の大きな正方形平面、通り土間と2列6室の床上からなる間取り、緩勾配の板葺き切妻屋根、雀おどしと呼ばれる棟飾り、などの特徴をもって紹介されることが多い。そこで、「本棟の家」と聞くと、こうした特徴をもった住宅なのだろう、と推測される。ところが、実際にこの住宅を見ると、緩勾配の切妻屋根や梁間の大きさを除いて、その特徴が見えてこなかった。
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