ケーススタディ3

その3
基礎と壁をつなげる下見板

 そして、端部に工夫のある建物正面の下見板は、大工がジグソーとホルソーだけで加工したもの。今日の木造住宅を見ると、土台部分に水切りがまわり、基礎のコンクリートと外壁材料がはっきりと分かれているものが多い。しかしこの住宅では、この分離をなるべく減らすよう意図され、下見板を基礎にかぶせている。端部の加工によって基礎との関係があいまいになり、ひとつの面として壁が現れている。民家のように単純な表現を得ながら、浮くような軽さも感じる。戸袋に見える部分は扉になっていて、中は農作業用具入れにするそうだが、この部分はご愛嬌。

 このように「本棟の家」は、日本建築でおなじみの各部が、そのモチーフ、場所、形状を変えながら、自由自在な展開を見せる。そして、その自由さを担保しているのが、本棟造に由来するゆるやかな切妻屋根と、古材の色味を生かした意匠とがつくる全体性、というわけである。そして、全体性の端緒として選択された民家形式の特徴がもつだろう現代的有用性と、部分がもつ自由さや軽快さを「明るい」と表現すれば、この住宅は、「明るい和風」のひとつの設計手法を示していよう。
 ところで、「本棟の家」を武相荘の紹介から始めたのには、こんな理由がある。丸山さんは、独立して間もない頃、建築家として進む方向を決めあぐねていた。そんなときに訪れたのが武相荘で、当時設計を進めていた実家の参考にしたそうだ。そして、「本棟の家」は、叔父がその実家を見て依頼を決めた。その話を聞いたとき、両者にはきっと通底するものがあるにちがいない、と思ったのだった。


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