
和風の
定型から脱する
「如風庵」の最上階、2階に上がる。ダイニングキッチン、寝室、浴室があって生活の中心となる場である。
東の壁のうねりは下階から続く。さまざまな方向から光が入り込む。見上げると釿(ちょうな)はつりの棟の梁が強烈な存在感を放つ。ハイサイドライトがあり、ロフトがあり、吹抜けがあり、頑丈な木製の造り付け家具がある。ここでも多数の襞の存在やノイズの共存は変わらない。
こうした様相の全体はどう位置付けられるのか。障子、土壁、真壁、漆喰、竹木舞、大黒柱、釿はつり、土間、床の間。これだけ揃えば和風にちがいない。
けれども、和風の定型を守りながら、際どい納まりや装飾的な装置の工夫を凝らすことで独創性を誇ろうとする数寄屋の系列からは遠い。一方、和風の定型を取り入れながら、隅々まで明るく、北欧系以外の家具が置かれると台無しになってしまうような、単一の繊細なセンスでまとめられた和風モダンからはさらに遠い。むしろその対極にあって、和風の定型からはそこここで逸脱し、隅々には闇が宿り、どのような趣味の家具が置かれても動じないタフな空間がそこにある。
つまるところ、光嶋風としか括れないような独自の様相が、建築家としての1作目と2作目ですでに完成度高く出現しているといえる。そうなると行く手はどうなるのか他人事ながら気になるが、京都の最近作「旅人庵」(15)では古民家の修復改造に挑み、思いもかけない新境地を開いている。
さらにその先はどう展開するだろうかと問えば、本人は恬淡として言う。
「和風には教科書的な決まりごとが多くあって、それを守っていれば大きくはずすことはない。けれどもそれに倣うだけでは停滞に陥ってしまう。技術的な部分では長い時間を経て練り上げられた定型に頼りながらもそこに止まらず、表現の自由度を高めていきたいと思っています。その都度、土地と対話し、施主と対話し、自由な姿勢で最良の解を求め、そのとき手がけているものを最高傑作にすると思って進むだけです」
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