特集/その2

保存も改変も選択次第

 しかし、「小石川の住宅」では水まわりや空調の設備の更新はされているものの、一見したところ劇的に変化した部分が際立っているわけではない。むしろ、オリジナルを尊重し、維持しようとの意志が散見される。たとえば、食堂の床材は元のチーク材を再利用し、一度床材をはがすときには、元の状態に戻せるように、一つひとつの材料に番号を付すという徹底ぶりだ。
 これに対し安田さんは、「『残す』という行為も選択肢のひとつだったということです。床のチーク材については、なにも徹底的に保存をしたかったわけではなくて、薄皮一枚はぐだけで新品同様になる貴重な無垢材なので再利用したのです。林さんがもともとそうした更新の可能性を仕込んでいたわけですから、それをわざわざ変える必要はなかった」。またデッキのデザインについては、「材料が根こそぎ腐っていましたから、すべて新品にしましたが、それを機にデザインを変えようとは思いませんでした。元のデザインが非常に庭に合っていましたから、迷いなくオリジナルを『残す』という選択をしました」と話す。
 つまり安田さんは、林夫妻や既存の建物を尊重しているのであり、保存という選択肢も創造行為に含まれているのである。保存も改変も選択次第、確かにそれが本来あるべき自由な創造といえよう。


>> 「私たちの家」のオリジナル原図を見る
>> 「小石川の住宅」(「私たちの家」改修)の平面図と改修箇所(2013年)を見る
>> 「小石川の住宅」(「私たちの家」改修)の断面図を見る

  • 前へ
  • 5/6
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら