特集3/独学の建築家

ようやく定着したネットワーク型建築

 すでに上棟時には各フロアと階段を行き来し、どこまでもループ状にネットワーク状の空間が連続する感覚を体感していたという建主だが、竣工後には思わぬ音楽の響きのよさも感じ、喜んでいるそうだ。また、光も、西日が反射して東側が明るくなるなど、予想もしなかったドラマチックな変化が楽しめるという。ちなみに、気になる温熱環境は、30分に1回、室内の暖気が最上階の排気口から排出される機械換気システムにより、ワンルームの室内はつねに微風が吹いているような状況となり、30度超の真夏日でもエアコンなしでいられるほどだというから驚きだ。
 柄沢さんは今後、こうした迷宮のような空間を、たとえば木造の在来工法でつくるなど、さまざまなビルディングタイプに応用し、展開させていきたいと語る。
 ドミノシステムや均質空間といった概念により、私たちは長きにわたり、空間とは床と柱からなるものだという感覚に支配されてきた。柄沢さんが提唱する「複雑な階層状のネットワーク」が、情報ネットワークの時代にふさわしい新しい空間形式として発展し、インターネットの普及がわれわれの生活を変えたように、多くの人々がこれまでに味わったことのない豊かな空間体験を享受できる日が来ることを期待したい。


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