特集4/独学の建築家

第2期の
集大成の建築

文/大山直美

 敷地は神戸市街から北上し、急坂を上りきった異人館街のはずれにある角地で、すぐ北には山が迫っている。建主は近くにギャラリーを構える島田陽さんの父上。神戸の街が一望できることを望んだが、土地は北側の道路より2mほど下がり、南と西にはマンションが立ちはだかる。そこで、眺望を得るべく、地下1階、地上3階建てとし、かつ道路斜線を避けるように平行四辺形の平面を導き出した。
 だが、そのまま立ち上げた1棟にするとボリュームが巨大すぎて北側の景観と日照を損なうので、地上階はふたつに分割、両者のあいだに路地のようなガラス張りの階段室を設けた。階段室の1階の床がスロープになっているのは、住み手の年齢からエレベータを設置しようとしたところ、地階の天井高が確保できないことがわかり、床を傾けて納めたためだというが、かえって路地的な趣が高まっている。
 北から見ると、それぞれ周辺の異人館と住宅に倣ったという異なる仕上げの外壁をもつ別棟に見えるが、南側はHPシェル状のデッキが張り出した1棟として構造的につなげている。
 島田さんはこの家を「塩屋町の住居」から始まる第2期の終わりと位置づけており、室内には多様な仕掛けが集大成のように盛り込まれている。たとえば、玄関側からは引出し付きの飾り棚に見えた家具が、奥から見返すと階段の一部と化す。角度をつけた洗面所の鏡張りの壁は山の緑を室内に取り込み、洗面台は反転した鏡像と連続して食卓のように見える。
 しかし、決して作為的な息苦しさは感じられない。むしろ内と外、建築と家具、さらに住み手がもつアートも渾然一体となって、変化に富んだ新鮮な空間を生み出しており、この家を介して、海と山が近い神戸特有の風景がつながったようにも感じられる。そこには島田さんが、それが建築という自覚もなく、不思議な構造物をつくっていた時代から試行錯誤を重ね、自分自身で鍛えてきた、スケール感や全体と細部に対するバランスの感性が働いているのだろう。

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