特集1/インタビュー

なぜ部分の設計なのか

——塀、窓と続いています。それぞれの事情があったにせよ、こうした部分の仕事が多いのは、おふたりの建築に対する考え方が反映されていると思うのですが。

増田 空間の設計はあまりしないことにしています。いかに空間になっていないか、というのは、ぼくらの重要な指標になっています。気持ちのよい空間というのは、もちろんあるとは思うのですが、そのバリエーションを増やしているだけでは、趣味の世界だと思えてしまうのです。ぼく自身がどこにでも住めてしまう人間ということもあるのですが、空間の力をあまり信じていません。では空間でないとするとなんなのか。場所の前提をどうつくるか、ということなのではないかと思います。たとえば、塀や窓です。その自立した前提が空間をゆるがすものになる、くらいが理想なんです。何かものをつくって、その影響で、ある一時だけ空間が現れる、くらいのほうが、人間が自然の状態でいられるのではないかと思います。空間をはじめから設計してしまうことは、かなり大きな意識決定で、ある意味とても不自然で窮屈なのではないかと思います。
大坪 設計するものには、何か目的や機能があると思うのですが、そういう目的はできるだけなくしたほうがよいと思っています。もちろんお施主さんの要望には応えていくのですが、その目的がはっきりとは見えないほうが、ほかのものと干渉しない設計計画ができるのではないか、という考えをもっています。強い目的は、ほかのことの妨げになることもありますから。何かをつくって、また別の問題を生み出していては大変だと思います。できるだけ無駄を避けてうまく全体が自然にまわっていく状態を構築する、という考え方です。増田が言った「自立した前提」というのはそういうものです 。

——次は何をつくっているのでしょうか。

増田 家全体はお施主さんが自分で設計し、われわれはおもに基礎を設計しています(「リビングプール」)。

——また部分(笑)。意図的に部分を設計しようとしていませんか。

増田 いえ(笑)。全体としては平屋の改修です。平面や家全体の希望は、お施主さんがはっきりもっていましたので、それでよいだろうと思いました。それよりも問題は、基礎でした。山の風景を気に入って買われた土地なのに、既存の床高からでは軒の関係で山が見えないし、湿気もひどかったのです。それでは本末転倒ですから、基礎を重点的に設計して山を見るためのアイレベルをつくり、湿気の対策をすることにしました。基礎に蓄熱するような仕組みもつくっています。

——しばらく部分のシリーズが続きますね。

増田 部分ともいえますが、むしろ腑に落ちないことを明確にすることが、可能性を広げ新しい状況を構築するうえで重要であると思っています。


>> 「風がみえる小さな丘」
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