もし張らなければ、失敗作となっただろう。当時、篠原は“キノコ”と“民家”から刺激を受けており、「から傘の家」は、角垂状に開く垂木だけだったからいいものの、その中央に丸い独立柱を立てれば、傘とキノコそのものとなり、低レベルの具象的造形と化す。
 天井を張るかどうか迷っていた、ということは、〈白の家〉の中核をなす独立柱が「から傘の家」から生まれたことを教えてくれる。しかし「から傘の家」の包むような内部空間だけでは満足できず、柱を立てたのだろう。
 そして柱を立ててみると、柱は、当然のように空間全体を支える構造的な背骨として立ち現れる。しかし、篠原が求めたのは、空間の骨ではなく、座標だった。正確にいうと、空間を測る軸となる座標がほしかった。
 この建築は外部を考えていないことに気づいたから、障子を立てて(閉めて)、もう一度あらためて室内を眺めたとき、丸柱が構造的な骨ではなく座標であることを確認した。
 障子を立てると、室内は白い四角な風船の中にいるように感じられ、開口部をはじめとするさまざまな建築的造形は風船の内壁に描かれた図形のように見えはじめる。そしてさらに、そうした図形は思いのほかバラバラと散在的に描かれ、全体を統合する秩序がない。秩序がないのに気持ちよく眺めていられるのは立柱が存在するおかげで、立柱という座標軸に見る者の視線はつなぎ留められ、白い空間の中を当てどもなく漂ったりせず、ひとつの結晶化した印象を得ることができる。
 この空間は、一本の柱だけを頼りとする綱渡り状態にある。〈白の家〉が、見る者をハラハラさせるようなアヤウサをもつのは、そこに理由がある。


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