ケーススタディ1

構造体の
存在感を生かす

「鉄のログハウス」を設計した原田真宏さんと麻魚さんが考えたことは、ログハウスの丸太材(ログ)のような構造体の強い存在感が、その場所に個性を生み出すのではないか、ということだった。確かに、大壁では、柱などの構造体を壁の内側に隠しているから、その存在はまったく感じられないし、真壁でも、通常の住宅で用いられる細い柱や梁が、場所に個性を生み出すほどに存在感を発揮するとは、あまり考えられない。その点、ログハウスでは、丸太材の存在感が強い、というより、むしろほぼ丸太材の印象しかない。
 もちろん、建築の構造体が存在感を発揮することが、必要不可欠ということではない。控え目であってほしいと思う人も多いだろう。しかし、現代のように規格材が流通し、どこに行っても、似たような材料で、似たようなつくり方をしている風景に見慣れていると、建築の実体に存在感がなくなり、フラットに感じすぎている傾向はあると思う。それは日常生活には、なんら支障のない傾向だが、本来の建築の力を信じている建築人は、時には危惧も感じるだろう。茅葺きの民家の屋根構造や大黒柱などを思い起こせば、かつては建築の構造体が、もっと人間の感覚に密着していた。ある種の問題提起のように、建築の構造体の存在感が失われている状況に風穴を開けよう、という思惑が、原田さんたちがログハウスに目をつけた心理にちがいない。
 ただし、これは丸太材のログハウスではなく、H形鋼のログハウスである。人間は、ステレオタイプになっている、あるいは定石どおりの事物には、それほど心が動かされないものだろう。ログハウスという形式は、広く人々の心に根づいている。そこで、H形鋼の力を借りた。しかも大規模なビル建設などに用いられる700㎜や1000㎜もの成の大断面のH形鋼が用いられている。住宅に用いるにはオーバースケールな大振りの部材。十分な存在感であり、特有の場を生み出している。
 こうした建築への美学が、「鉄のログハウス」には宿っている。しかし、美学だけではない。H形鋼を積み重ねる構法には、建築生産上のメリットもあった。


>> 「鉄のログハウス」の図面を見る

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