ケーススタディ04

モロッコ的なるもの

 実施を前提とした建築の設計案が公募され、選考された案が代官山のギャラリーで展示されるという1年に1度の展覧会がある。若手建築家の登竜門とされるSDレビュー。
 2010年、「33年目の家」が入選した。20分の1の縮尺の大きな模型に、家具などの備品や植栽など、形あるものをすべて精緻に組み込んだ展示が行われた。それは造形の美しさや整合性を開陳するのではなく、そのなかで展開される生活のありさまを余すところなく表現しようとしたものだった。それを見たドイツのさる賢人が、「モロッコ的」な住居であると評した。モロッコ的とは、外殻は単純で、固く、閉じているが、内側は中庭を囲んで複雑な構成を呈し、強烈な陽光が降り注ぐデッキがあり、生活の多様な姿があふれるように表出している状態を指すと推定される。設計者が思ってもみない指摘だったそうだが、言われてみればなるほど、「33年目の家」の整ったシェルターの内側に自由気ままな生活のスタイルをやわらかに受け入れる空間がしつらえられている姿は、モロッコ的と称しても遠くないのだろう。
 設計者のひとりである松原さんは、賢人の言葉に触発され、その後モロッコに渡り、アーティストとしての活動に専念し、今に至っているという。
 奈良、東大寺境内とモロッコがつながるという不思議。
 こうしてみてきたように「33年目の家」には、中世から現代までのいくつもの時間が導き入れられ、ニューカナン、オーストラリア、モロッコほか、各地とつながり、アートと建築が交錯し、仮設と常設の境目が溶けあい、洗練と粗野が同居し、バナキュラーとモダンが絡みあい、という具合に、多種多様な要素とエネルギーが渦を巻いて流れ込んでいる。小さな立体の内にそれらが充満し、激しい活力となって、今にも大海に船出してしまいそうな勢いが生み出されている。

>>「33年目の家」の平面図を見る
>>「33年目の家」の断面詳細図を見る

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