——青木さんは「N邸」をご覧になってどんな感想をもちましたか。
- 青木 淳 パッと見て、建ち方がいいなあと思った。まわりは同じような敷地で、外形にかかわる法規も同じだから、ほぼ同じ形のものが建つ。でも「N邸」は無理がなく、ちょっと小さく建っている。
外観は完全なシンメトリーで、中へ入るとさらに前後の……、つまり2軸シンメトリーですね。非常に構成がわかりやすくて、悪くいえば図式的なんだけれど、見た印象はそれを感じない。そのギャップが一番いいところかと思いました。
- 村山 徹 クライアントから白い家という要望があったので、まわりと同じボリュームにすると膨張して大きく見えてしまいます。また突出しないように、なるべく普通の素材、普通の仕上げを使うように考えました。
シンメトリーについては、敷地の第一印象が東側に抜けていることだったので、西側のファサードも同じ顔にしてどちらの眺望も生かすことにしました。街並みにきちんと合わせた建ち方をしないといけないと思っているので、外観への意識は強くもっています。
- 加藤亜矢子 補足すると、ここで私たちがはじめにつくったルールがシンメトリーでした。でも村山君経由で青木さんから学んだこととして、「ルールをつくっても、それを100%守る必要はない」というのがあります。だから階段やキッチンはベストと思われる場所に置いていて、それによって実際にはあまりシンメトリーを感じさせないのかもしれません。
- 青木 ルールというか全体を統御するものと、建築の空間がもつ質とがどういう関係にあればいいのか。それはいまだに僕もわからない。
- 村山 一般的にルールをつくると、それに忠実につくるためにゴールを設定してそこに向かっていきますよね。つまり「マラソン」のように、遠くても目標が決まっているものですが、青木事務所のやり方は「散歩」で、距離は同じでも目的地はない。そこがいいなと思います。
- 加藤 ここではつくりたい質を実現するために、この場所にどういうあり方をするのがベストなのか、一つひとつのディテールを決断しました。その集合体としてよい質のものができると考えたんです。
- 青木 アップルのスティーブ・ジョブズがiPod(*)をつくろうとしたとき、彼の頭のなかでは、それのある生活が価値観をどう変えるかとか、その哲学までみえていたと思う。でもiPodがない時代に、まわりにそれを説明しても絶対に通じない。だからとにかく、iPodというものをつくろうと言ったわけですね。「N邸」でいえば、こういう条件があるからシンメトリーを大事につくりましょうという話は、村山君と加藤さんのあいだで通じるし、またクライアントにも通じる。
質というのはものに備わっているというより、それを見て人が感じることですよね。ではここで質をつくっているものは、なんだと思いますか。
- 加藤 膨大にあると思いますが、たとえば光がどう入っているか。
- 青木 うん、それは大きいよね。出窓ふうになった妻側の開口部は、開放感があって外とつながっている感じがある一方で、わりと腰壁が高い。トラックの運転席みたいな(笑)安心感があって、バランスがいいと思う。
- 加藤 きちんとデザインしすぎると人に緊張感を与えるので、そうならない程度に寸法に気を配っています。
- 青木 それはよくわかります。そういうつくり方の積み重ねで、固さや表現意図が自然に消えているね。
- *iPodは、アメリカのApple.Inc.の登録商標です。