特集/対談

「柱と床」の評価

——ところで、福島さんの作品「柱と床」はいかがですか。

伊東 彼の性格が反映されていて、てらいがなく、気持ちがよいというのが第一印象です。独立後の最初の作品である「中国木材名古屋事業所」(04)を見たときも、同じような印象をもちました。うまく表現できないのですが、あらゆる点で正攻法できちっとしている。
 構成の点では、東京の密集地の住まい方として、1階の土間の空間が特徴的ですごくよいと思いました。子どもたちの遊び場としてもとてもよい空間だし、いずれ成長したら、子どもの拠点があそこに移っていくのかもしれない。
福島 お施主さんも、そう考えていらっしゃるようです。住み手として丁寧さとたくましさをもちあわせているご家族で、打ち合わせの段階からとても刺激を受けました。
伊東 若い人の設計した住宅について最近はうといけれど、この住宅はどう位置づけられているの。
福島 前の「e−HOUSE」(06)と比較すると、大方は時流からはずれているというか、風変わりな住宅と位置づけられているのではないでしょうか。「e−HOUSE」はすべての壁が折り紙のようになっている住宅で、時代に寄り添っているとみられたのか、驚くくらいの高い評価を得ました。雑誌、テレビなどあらゆるメディアに取り上げられました。だからこそ、時代に寄り添いすぎることに危機感を抱いたのです。今回は自分の個性は何かということを考え抜いて、コンクリートのグリッドフレームで床を支え、その上に木造のペントハウスをのせるという、一種の建築の原型のような形式に到達しました。「柱と床」というタイトルを採用したのも、そうした思いからです。でも竣工直後に見に来た人たちは一様に「よくわからない」と戸惑っていました。評価されるようになったのは2、3年たってからで、2009年の東京建築士会主催「住宅建築賞」の金賞をいただきました。その際も、1階の空間がとくに評価されたようです。
伊東 室内にものがいくら出てきても気にならないのはいいですね。コンクリートのフレームのためでもあるし、それがない3階の空間にしてもそうなっている。ゆったりとしていて、包容力があるというのか、よい意味での冗長性があるというか。
 もちろん私とは異なるアプローチであり、スタイルですが、この住宅をひとつの基点として、さらに活躍の場を広げていってほしいと望みます。
福島 師と異なる作風の弟子が育つのが、伊東事務所のすごいところですね。そのなかでも、僕は伊東さんから一番遠いところにいます。だからこそ、今なお伊東さんから大きな刺激を受けていますし、願わくば伊東さんに影響を与えるような存在でありたいと思っています。今日は12年前の伊東事務所卒業の追試を受けるような緊張感がありました。なんとか合格点を与えていただけたのでしょうか。これを励みにいっそう精進していきます。どうもありがとうございました。
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