「SHAREyaraicho」は、「新築」のシェアハウスであるところにも特徴がある。事業性のこともあり、シェアハウスは既存住宅の転用やリノベーションでつくられることが多いが、今回は新築でつくられた。賃料は7万円で、光熱費等を含めた共益費が一律で1万円となっている。事業上、総工費の元をとるためにはある程度の賃料が必要であったが、一方で、シェアハウスの性格上、一般的にいうと7万円を超えると、住み手がつかないという。居住者同士のコミュニケーションに魅力を感じている住民も、やはりシェアハウスには併せて経済性も期待しているのだ。そのため、「新築」のシェアハウスは、事業としては利益重視で展開するのは難しいのかもしれない。
しかし、「SHAREyaraicho」では事業性以外にも期待されていることがあった。篠原さんはこのシェアハウスにおいて「プログラミングと建築の合体を試みたかった」と語る。従来、「シェアハウス」とは、事業者が住宅を他人に貸し出す運営方法であり、そういった建築形式があるわけではない。篠原さんは、寺院には寺院の、学校には学校の基本的な建築形式があるように、「シェアハウス」という建築をつくろうとしたのである。
篠原さんは、古民家に7人でシェアして居住している「松陰コモンズ」を調査した際、7人という人数の妥当性、そして、コモンスペースが豊かに使用されるため、意図的にオープンにする要素の必要性などを感じたという。その経験を生かし、「SHAREyaraicho」でも個室を7つとし、外を意識した生活となるように、多くの隙間を設け、空間的に全体がつながるようなつくり方をしている。「どう開き、どう閉じるのかは、ここに暮らす7人の意思にかかっている」と、シェアハウスにおいては、居住者の住みこなす意識が大切であるという篠原さんの思いが込められている。そうした設計思想によって生まれたシェアハウスの形が、テント膜の中で浮かぶ箱群であり、7人、7畳、7万円という規模だ。シェアハウスの建築形式のひとつとして、今後の指標にもなるだろう。
夜中、「SHAREyaraicho」の前を通ると、かつて江戸庶民が竹矢来を見て酒井家の屋敷の暮らしに思いを馳せたように、テント膜が、内に広がる暮らしを映し出していた。