特集/論文

 これに対して、2013年夏頃からの「違法貸しルーム」、いわゆる「脱法ハウス」問題と、それに引き続く国土交通省の対応が広げた波紋は、急成長を遂げてきたシェアハウス業界に水を差す形となった(*2)。すでに述べたように3LDKの各部屋を6万円で3人に貸せば18万円だが、もし同じひと部屋に2段ベッドで4人詰め込むことができれば、1人3万円でも合計36万円の家賃収入が得られる。こうした点に目をつけた業者がカラオケボックスや漫画喫茶のノウハウを生かして参入し、厚手のベニヤ板などで1畳ほどの空間を囲った木製カプセルホテルを「シェアハウス」と称して貸し出すなど、あからさまな建築基準法違反や消防法違反の実態が報道され大きな問題となった。これに対応する形で、国土交通省は「違法貸しルーム対策に関する通知について」(2013年9月6日)のなかで建築基準法の解釈を示すが、今度はこの「通知」がシェアハウスを一律「住宅」ではなく「寄宿舎」とみなすきびしいもので、これでは良質な業者を含めたほとんどのシェアハウスが違法になってしまうことになる。また、「通知」に反応した業者のいくつかが居住者に事業の閉鎖と退去の通告を行ったことで、「違法貸しルーム」しか選択肢のない低所得層の若者が住居を追い出されて路頭に迷うといった事態にまで発展した。
 もちろん、地震や火災への備えを無視し、居住者の安全を犠牲にしてまで利益を上げようとする悪質な業者を取り締まらなければならないのは当然だろう。だとしても、昨日まで家族3人が暮らしていた3LDKの住宅に、事業者の募集に応じた若者3人が暮らしはじめるととたんに危険な違法建築になるというのはあまりにも不合理ではないか。シェアハウスが単に低所得層のための格安の受け皿としてではなく、単身生活者のための新しい生活スタイルの提案として、また、既存の空き家・空き部屋活用を通じた重要な地域戦略として注目されてきたことを見落とすべきではない。居住の安全と新しい共同的なライフスタイルをどのように両立させるかを考えるためにも、シェアハウスでの生活実態とその可能性に関する詳細な検討が必要だろう(*3)。

*1:シェアハウスを専門に扱う情報サイト「ひつじ不動産」(http://www.hituji.jp/)の統計による。
*2:2013年6月から毎日新聞が「脱法ハウス:1.7畳、手届く四方の壁 住民同士会話なく」として報道したことがきっかけになっている。
*3:こうした問題を考えるための情報サイトとして、筆者も参加するSHARE ISSUE ARCHIVES (http://share-issue.org/)を参照のこと。


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