森にたたずむ木造の別荘
作品/「ヒメシャラの森の家」
設計/横内敏人
山中の斜面地に立っている別荘。二間四方の室を矢車状に配置しながら、各室や内外の関係を調整している。安らぎとともに恐ろしさもある自然のなかでの立ち方には、縄文的な野性も見え隠れしている。
取材・文/伊藤公文
写真/傍島利浩
野生の森の
安らぎと
畏怖
森というと、現代の文明社会に暮らす私たちは、移ろう樹陰を求め、四季折々に表情を変える木の葉を愛で、梢を吹き渡る風の音に耳をすませる、つまり日々のせわしない生活のストレスを解消し、安らぎを与えてくれる場であるとアプリオリに考えがちだ。
しかし、本来、森はそのような場所ではない。奥深く濃密で、野生の放逸な生命力がみなぎり、そこらじゅうに精霊が宿って恐ろしい触手を伸ばしていたり、たくさんの神々が生物や人間と未分化の混沌とした状態を形成している場所である。近代的な理性で明快に切り分けることができるような場所ではない。そこには恐怖あるいは畏怖を伴わずに分け入っていけないが、一方で、人間の生を支えるさまざまな恵みをもたらしてくれる尽きせぬ豊饒の場でもある。
別荘「ヒメシャラの森の家」は深い森のなかにある。数千坪の敷地に平坦な場所はなく、ヒメシャラ、ヤマザクラ、カエデ、ミズナラなどの大樹がそびえ、一面の高い藪で覆われ、30m近くの断崖があり、幾重もの山容が視界の届く限りある。設計者の横内敏人さんがこの地に初めて立ったとき、一方では安らぎを感じながら、一方では必ずや畏怖を覚えたはずだ。そこから、現代の住まいは「開放的な明るい場」と「閉鎖的な守られた場」の組み合わせがよいという横内さんの従来からの考えを、ここでさらに発展させてみようという考えに達したにちがいない。
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