編集ノート

横内敏人さんのオフィスを
訪ねたときの記憶

文=中原洋

 はじめて横内敏人さんのオフィスを訪ねたときに見たのは、広大な敷地の見事な風景だった。若王子の池の脇に建つ古い母屋。そこへ弧を描きながら小道が続く。右手には控えめに若王子の池を望むゲストハウス。ガラス張りの大きな空間を備えた横内さんのオフィスは、緑に遮られてここから見えた記憶がない。
 母屋は低い瓦屋根、小体ながらなつかしい。ゆっくりと小道が玄関に続く。格別なものに見えないけれど、寄付き、座敷、茶室などがある、かつての日本の檀那衆にかかせない客を意識した平面図の住まい。住むという形だけでなく、日本人の守ってきた自然との対話、人との対話が見事に体現化されていた。
 母屋そのものは横内さんの住まいではないにしても、横内さんはこんな環境の中で仕事をしているのか、と思った。自然と人工、モダンと伝統、デザインを超えて統一された暮らしの形に心打たれた。この記憶を忘れることはないだろう。


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