レーモンドの木造は、日本の近代建築史に新しい恵みをもたらした。
大工の伝統技術を巧みに生かしながら、しかも日本の伝統とも欧米とも違うモダンな原理に基づく木造表現である。
この成功を最も端的に、というか最も純粋に、というか最もローコストで実現してみせたのが、戦後9年たって麻布につくられた"レーモンド事務所"の建築で、今は取り壊され、残念ながら私は外しか見ていない。
レーモンド事務所の建築が"端的""純粋""ローコスト"なのは、残された写真からわかるが、別の証拠もあって、他人がそっくり追実現した例がふたつもある。ひとつは高崎の"旧井上房一郎邸"(1952)。井上さんは、戦前、来日したタウトのパトロンを務め、お金にも文化にも恵まれていたのに、レーモンド事務所の小屋のような木造に魅せられ、図面を借りて再現し住んでおられた。
そしてもうひとつが、今回の"津端邸"。75年、愛知県は春日井市につくられている。
設計した津端修一さんと夫人の英子さんは、『あしたも、こはるびより。』(主婦と生活社)などの本を出し、定年後の人生の達人夫妻として今では知られている。
私が初めて津端さんに連絡をとったのは、その昔、草創期の日本住宅公団を調べていたときで、住棟の味気ない並列配置を否定し、変化に富んだランダム配置の発明者として知られていた。でも会うことはなく、今回が初訪問。
公団に入ってからのことは承知しているから、それ以前のことを聞いた。