
——今回の特集は、「なつかしいデザイン」というのが基本にあります。塚本由晴さんより若い世代で、そうしたものにすごく関心をもっている人たちがいる。アトリエ・ワンのデザインがそれと共通項があるとは思いませんが、ある時代の流れのなかにあるのではないでしょうか。
- 塚本由晴(以下、塚本) 私は基本的に、古いものとか、名もないものがすごく好きなんです。バナキュラーな建築とかね。それらは、まず形ありきではなくて、いろんな知恵や配慮をバランスさせた結果として、ああいう形になっている。そのバランスさせるところが、知性といえる部分です。建築をつくるときにはいろんなことを同時に処理しますが、それをまとめた形が歴史的につくられてきた。それを「家かビルか」という外形に力点を置いて語ったのがポストモダンだと思う。
——この家の屋根も、ポストモダンとは違いますよね。
- 塚本 そうですね。スタイルではなく、屋根がもつ知性を、どうやって現代のコンテクストのなかで生かすかに関心がある。「近代が箱だったから、それに対抗して屋根をつけます」という、リアクションではない。たとえば屋根は、雨の勾配、日差し、断熱、内部空間、構造と、いろんなことを同時に均衡させた結果としてこうなっている。その一つひとつ情報を取り出せば情報だけれど、それを統合する、まとめて均衡させるというのは、それより一歩踏み込んだ知性というものなんです。建築設計で楽しいことのひとつはそういう歴史的に培われてきたものに、現代を重ねられるところですね。それにより、時間的な広がりをもてるし、昔の人が考えたことを追体験できるし、人間がずっとやってきたことのおもしろさを自分のものにできる。そういうのが好きだということが、最近だんだんとはっきりしてきました。
——切妻の屋根を選んだ意図はどういうものですか。
- 塚本 まずは北側斜線をかわすためです。加えてこういう小さな空間をつくるときには、建築らしい形、家らしい形を堂々と示した方がいいのです。
——それを薄くしているのはなぜでしょう。
- 塚本 軒を出したいのですが、その破風が分厚くなると、今のものにならない感じがする。小さい家ではそのへんは気合いを入れないとダメだと思って、ちょっとピリッとさせています。基本的につつましくつくっていますが、中庭のガラス屋根や庇くらいは……。
——樋もすごくきれいです。
- 塚本 ええ、銅の樋のディテールとか、そういう縁(ふち)のところだけにお金をかけています。後は基本的に丁寧につくることを心がけて、特別なことはしていない。妻壁の内側は白い漆喰塗りや銅板葺きにして、形というより雰囲気の違いを出しています。





