特集/インタビュー

スタイルでものを見ない時代

——ここまで建築家としての塚本さんにお話を聞きましたが、教育者としての塚本さんは、今の若い人たちの、ノスタルジックなものを含むデザインの傾向をどうご覧になっていますか。

塚本 私が80年代に受けた建築教育は、もちろんまだ近代主義的なものです。ポストモダニズムの表現が出てきても、学校のカリキュラムはモダンな計画原理。私は今設計製図を教えていますが、当時の建築教育からは相当、逸脱しているかもしれない。私が学生に言っているのは、「建築の文法をきちんと理解して、そこに込められた知性を理解すれば、古いも新しいもない」ということです。「それはすべて利用可能なものとして開かれているのだから、それを使うほうがいい。かつ、どれを使うかにより、歴史的な時間軸のなかに今を位置付けられる」と説明します。そうすると、学生はすごく素直に古民家みたいなものを設計したりする。
 たとえば、2年生の最初に出した住宅課題では、北海道にあるようなマンサードの納屋風の建物を出してきた女子学生がいました。彼女が考えたプログラムは、まちのなかで、ヤギを飼いながら住むというものでした(笑)。そこで、「そういう場所では納屋の形式が使われてきた」と言うと、素直にそれで設計を始めるんですよ。結果的におもしろいものができて、ちょっと驚きましたね。すごく柔軟だな、と。私なんか自分で考えて学んで、20年くらいかけてようやくできたことが、軽くできてしまう。スタイルに対するこだわりが全然ないし、スタイルでものを見なくてもいい時代が来たんじゃないかな。
 建築のおもしろく、かつ難しいところは、新しいものと古いものを比べたときに、新しいものが必ずしもいいわけではないことです。コンピュータだったら、絶対に新しいものがいい。だけど建築の場合、今の建築とルネサンスの建築とどちらがいいかと聞かれたら、答えに窮しますよね。それがいいところだと思うんです。


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