特集/ケーススタディ

対比と併存

 続いての発見は室内の色。木村松本さんは、室内に白を使うことを注意深く避けている。
「室内は明度を変えて3種類のグレーを使っているんです。天井のグレー、木毛セメント板の地のグレー、そして角鋼の柱と間仕切りのグレー、微妙に明度を違えています」
 帰り際、3階の木の床もよく見ると淡いグレーだった。グレーの塗料で拭いたという。明度の違うグレーを何種類か使うことで、空間に深みが備わるように私は感じた。
 話は一巡して話題は再び「領域設定」である。これが具体的に表れるのは、なんといっても1階の壁と窓の処理だ。大人のへそより少し高い腰壁は住宅の中と外を明確に分けている。しかしその腰壁の厚みのせいで、窓辺に色とりどりのカップを置いて通りの人の目を引いたり、ちょいと垣根越しの立ち話といった風情で、お互いに腰壁にもたれかかっておしゃべりすることだってできる。この腰壁は、分けるだけでなく内と外の心理的距離を近づける役割も果たすのだ。ここにも対立する機能の併存が見てとれる。次に、腰壁の上にのせたガラスである。いきなり突き出し窓ではない。あいだに300㎜のフィックスガラス。なぜか。
「ガラスは透明だけれど透明ではないんです」
 突き出し窓は、網入りで透明度を落とし、その上に縦格子をかぶせて視認性をさらに下げる。すると相対的にフィックスガラスの視認性が高まる。そして突き出し窓の窓枠の幅は30㎜。既製サッシならその倍以上になる。通称「鍛冶屋」でつくったこのステンレスの窓枠はプロダクトに近い。幅270㎜の腰壁と突き出し窓の30㎜窓枠の厚みの対比。そして突き出し窓とフィックスガラスの視認性の対比。二重の処理でフィックスガラスからはガラスの存在感が消え、心の目にはただの隙間と化してしまう。こうして街行く人たちは気軽に腰壁の垣根から他人の庭をのぞきこめるのだ。ここにも対比と併存がある。
「K」は人に垂直性を強く意識させる。垂直方向のおもしろさを街の人に気づいてもらおうと思ったと建築家は言う。だから縦方向へ視線をいざなうという考え方が縦格子や板金屋に特注したスパンドレルという形に結実したのであって、その逆ではない。
 街にある古風な壁や窓のデザインを引用しても、はりぼてはすぐにわかる。生まれながらに豊かな「時間」を内在化させているという意味で、この住宅は建築としてはまれな存在である。


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Movie 「K」

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