そういえば、山口文象は下町の大工の息子で、若い頃、ノコギリやノミやカンナのトレーニングを受けたことを思い出した。大工の棟梁になるはずが建築家になった。
兄は棟梁となり、弟のデザインした家をつくり、弟は自分のデザインよりも兄の木造の腕を自慢しつづけた。
このエピソードに私の思考は動きはじめる。太い柱と梁と囲炉裏、そして大工の伝統の腕前。この建築の奥には"民家"の存在があるのではあるまいか。しかし、モダンな感覚もある。モダンな感覚で洗われた民家。そうだ、柳宗悦が発見した"民芸"。
民芸の二文字を得て、やっと山口の木造が見えてきた。レーモンドや前川や丹下や吉村の木造との違いはそこにあったのだ。レーモンド以下は建築家としてまずモダニズムを学び、その後、日本の伝統木造に目覚めたのに対し、山口文象は伝統の木造を身につけてからモダニストになり、その後、再び木造と取り組んだ。山口の木造住宅はモダニズム建築ではなく、モダニズムの水で洗った伝統木造だったのではないか。今後はこの視点で山口の木造住宅に迫ってみよう。





