特集/ケーススタディ3

壁を家具化する効果

  本来、壁は無垢な隔てである。風雨から室内を守ったり、隣室から見られないように視線を遮断するなどの、「隔て」としての役割が、壁の本務だろう。「かべ」という和語は、「垣隔てる」が由来であるともいわれている。しかし、壁には兼務もある。たとえば、書院造において、床や違棚などの座敷飾りを配した壁は、部屋の格を表す象徴として、重要な役割を担っている。また、棚が取り付けられれば壁は収納力をもち、絵画が掛けられたら壁はその部屋の顔にもなるだろう。装飾や機能が取り付けられることによって、壁という面には、さまざまな意味が付加されて、壁は兼務を担うことになるのだと思う。書院造のように、時には壁によって、その場所の性格が強く決められることもある。
 目黒本町の住宅は、こうした壁の兼務である、周囲の場所の性格を規定する力を効果的に用いていると思う。箱の壁はその周囲の用途を大きく補佐し、場所の性格付けを行っている。そしてその効果は、箱あるいは壁の家具化によって、よりいっそう強調されているのではないか。この箱を建築物の一部というよりも家具のように見せることによって、壁の隔ての印象が薄まり、むしろ本棚や収納が本務である家具に近い存在としてこの箱は際立っている。キッチンカウンターのような50㎜の浮きやシナ合板の仕上げも、家具化のための仕様である。壁の機能性が際立てば、自然とその場所の用途の性格も強まるだろう。
 隔てることだけが役割の壁はもはや珍しい。壁に機能や装飾などが付加されたとき、その周囲にどのような場所がつくられるのか、あらためて考えてみるべきなのかもしれない。


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Movie 「家具化した壁」

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