
- 植木幹也(以下、幹也) 建て主は「中庭がほしい」と言って、建物の中心に四角い中庭があるプランを自ら描いてこられました。いわゆるコートハウスといわれる形式です。よく聞いてみると、「周囲に閉じた中庭」を望まれているわけではなく、「光が入り風の通る中庭のある暮らし」がしたい、ということがわかってきました。また、奥さまはすぐ裏手にある実家で育ち、近隣と良好な関係をもちつづけているので、外に対して閉じる必要はありませんでした。それで、空間の関係性をより豊かにできる中庭のあり方を、周辺環境との関係も含めて検討することにしました。
- 植木茶織(以下、 茶織) 中庭をこれまでとは違った方法で、生活を豊かにするものとしてつくれないかと考えたのです。
- 幹也 一般的なコートハウスを分析してみると、建物の真ん中に四角く設けられた中庭は自立性の高いスペースとなっています。「綴の家」では中庭の強い性格を排除し、中庭以外の周辺環境にも視線が行くようにしたいと考えました。プラン上では、真四角の空間をL字型の壁で仕切り、残ったスペースを中庭としています。
- 茶織 L字型の壁の裏側に路地のような中庭をつくることで、採光や通風は確保できます。中庭を中心に据えなくても、従来の中庭にはなかった空間の関係性ができるのではないかと考えたら、すべてのものが決まっていきました。
- 幹也 L字型の壁を使って要求されている部屋をつくるのですが、部屋のそれぞれの壁面は、周辺に対して同じ程度の長さで接します。それで、できた空間は中庭と周辺の双方の外部に接することになります。できる限り各壁面にひとつずつ窓をあけて、部屋の4面に窓をとっています。外部に等価に接することでそれぞれの部屋が自立し、内部の独立性が高まります。また、全周が外部と接することで中庭の中心性が排除され、空間の関係性が変わってくることをねらいました。水まわりもほかの部屋と同じように並べたいと思い、スペースを大きくとっています。
- 河内一泰 L字型を意図されたというのは知らなかったのですが、言われてみれば確かにそうですね。
- 幹也 L字型に囲まれることが意識されるように、ディテールの処理にも注意を払いました。部屋の間仕切り壁の端では仕上げを少し飛び出させて切りっぱなしのように見せています。
- 河内 L字型の壁の操作は、空間に亀裂を入れるような処理なのかと感じました。
- 幹也 そう考えてもいました。一般的な中庭は箱に押し込めるようなイメージですが、それに対して、元からあった箱に亀裂を入れながら中庭をつくるという考え方です。
- 茶織 中庭に形を与える方向ではなく、四角い空間を分け、残った亀裂が中庭としてある。そして、壁の裏側のようなものができているというイメージもありました。
- 河内 亀裂というほうが、自分にとっては理解しやすいですね。部屋同士の間仕切り壁が、厚みをもって外部の「隙間」としてできてくるような雰囲気ですね。
- 幹也 そうですね。部屋は壁面を共有していません。部屋の独立性が高くなると、壁で仕切られた部屋とは違う距離をもつ感覚で受け入れられるだろうと考えました。
- 河内 隙間にある両側の壁の端が揃っているのは、もともとはひとつの壁だったからですね。ひとつの壁が分かれて、移動して隙間ができた。実際にこの住宅を体験したときは、中庭にいるときよりも室内にいるときのほうがおもしろいと感じました。中庭を居場所ではなく隙間ととらえると、しっくりときます。その隙間が、部屋同士の距離感をつくっているとあらためて感じました。そして隙間のロフトスペースは、本命の空間ではない居場所として、裏側という感じが強くておもしろい。僕はここまでいろいろ考えて計画できませんね。全体として、居心地のいい家だと思いました。
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