特集/ケーススタディ2

ディテールに同じ場面は二度とない

 2階はいくらか様相が異なる。露地から茶室、水屋兼シャワー室、アトリエと、天井高、素材、テクスチャー、色、光の制御など、すべてにおいて抑揚が強めにつけられている。それによって、非日常の空間であることが明瞭に意識される。
 変形多面体の外観は軒裏までアルミ板でくるまれ、あたかもアルミの立体が宙から舞い降りてきて着地したよう。そこに上っていく外部階段は赤く塗装され、細い1本の手すりは危うげで、別世界への渡りであることが明示されている。窓は三角形のアルミパネルがダンパーによって外側に跳ね上げられ、閉めるときには先端にフックをつけた棒を用いてパネルを引き寄せる。
 ほかにも、茶室として使用されるときには水屋になり、客室としての使用時にはシャワー室に模様替えできるしつらえなど、幾多の精巧な仕掛けや工夫が満載されているのが、この2階の空間である。それでも部分が過剰に前面に出たり、ディテールが勝手な逸脱を見せているところは、ひとつとしてない。その精巧さを誇示したいという誘惑も生じるのではと思うが、そうした場面を目にすることはない。横河流のダンディズムである。
 ひと渡り見終わった後、空間構成の筋道が決まれば、素材や部分の扱いは手馴れたものにちがいないのだから、後の処理は簡単なものでしょうとうっかり尋ねると、横河さんの表情は一瞬にしてくもった。
「経験は山ほど積んでいるけれど、同じ場面は二度とめぐってこないからね。いつも最初から考え、同じように手間ひまかけて検討し、設計するんだよ」


>> 「弘中邸」の断面詳細図を見る
>> 「弘中邸」の平面図を見る

  • 前へ
  • 4/4
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら