5年前、「SDレビュー」の審査をしたとき、不思議な案があった。案の多くは、白い面が組み合わさり、物としてよりは空間の虚実をあれこれ操作する抽象的なものなのに、その別荘案「千ヶ滝の別荘」だけは、帽子のような形の屋根が斜面からちょっと浮くという、具体的でわかりやすく、しかし、前例のない案だった。
現代において“具体的でわかりやすく”と、“前例のない”の両立はきわめて難しく、「高過庵」(2004)をすでにつくっていた審査員としては、このような案をつくる若い人が現れたことがとてもうれしかった。
それが大西麻貴と百田有希で、大西は当時私が勤めていた大学研究所の上の階の研究室に属する大学院生と知ったのは、しばらくしてからだった。さらにしばらくして、伊東豊雄の福岡の「ぐりんぐりん」(05)の一画に泥塗りの建築「地層のフォリー」をつくるにあたり、土の相談に来て、あまりのあどけなさに驚いた。後で知ったが、地層のフォリーは当時同級生で、現在伊東豊雄事務所に勤めている百田有希が主導していた。
帽子の家を追い抜いて、このたび、「二重螺旋の家」(11)がデビュー作としてできたというので、出かけた。
敷地は谷中の墓地に隣接した迷路の中にあり、それもひとつの広い角地が6つに分割分譲された一番奥。いわゆる旗竿敷地だが、ふつうの旗竿とちょっと違い、竿が角地の両側から伸びた二本竿という珍しさ。
見てすぐ、「塚本好みの敷地だナァ」と思った。アトリエ・ワンの塚本由晴・貝島桃代コンビなら、二本竿や周囲のさまざまな条件を取り込み、凸凹きわまりなき多孔質の住まいをつくるだろう。
でも、目の前の住まいは、塚本風とはだいぶ違う。二重螺旋の名にふさわしくネジレてはいるが、ひとつの固まりとして、直立している。塚本住宅にはない直立感。
外からは外まわりの螺旋しか見られないので、大西さんに案内されて中に入る。久しぶりだが、あいかわらずあどけなく、歳を聞くと28歳。このたび、博士課程を修了し、パートナーの百田有希さんと設計に専念中という。
まず中をひと巡り。完全な二重螺旋ではないので、四角なプランの角、角で折れながら階段を上っていく。空間認識は少し混乱するが、まわる途中で不意に現れる窓や開口部や部屋を巡りながら、上へ上へと昇ると、途中、階段室と部屋とのあいだに隙間がある。
そこは外部化しており、下をのぞくと庭が見え、前をのぞくと部屋の窓があって、室内が間近に見える。階段室の窓から手をかざすと、下の庭からは冷たい上昇気流がそうとうの勢いで上がってくるから、このわずかな隙間が外部につながっていることがわかる。家の中に口を開けるクレバス。初体験。ドキッとする。





