女性目線でつくるトレインビュー・ホテル

 敷地は北側をJR在来線、南側を新幹線が走る、長さ250m×幅12mのやや湾曲したプラットフォームのような形状。敷地に沿って立つ8階建ての建物も長さ170m×幅11mという細長さだが、建築設計を担当した日建設計の田中秀男さんによれば、全体を3両編成の車両に見立て、あいだに2カ所の連結部を設け、それぞれに大きな開口部と、エレベータホールやロビーを配したとのこと。両脇に客室扉が並ぶ長い廊下を歩いていくと、ところどころに明るく広々した空間があり、見通すとまさにゆるいカーブにさしかかった列車内を歩いているようだ。
 線路に挟まれ、高さ31m規制がかかる苛酷な条件の敷地に、いかに騒音と振動から守られ、かつフロア数を確保した建物をつくるか。これらを解決するため、外壁は500㎜厚のRCベアリングウォール架構によって室内に梁型が出ない客室を実現する一方、耐震性をもたせつつ直下の近鉄線からの振動を軽減すべく、ホテルでは珍しい中間層免震構造を採用。さらに二重サッシや縦ダクト貫通方式も取り入れ、騒音対策も万全を期した。ちなみに白と黒の縦格子が印象的な外観は、京町家の白壁とむしこ窓をモチーフにしたそうだ。
 今回ホテル内を案内してくださったのは、都ホテルズ&リゾーツ初の女性総支配人である近鉄ホテルシステムズの楳垣真弓さん。「一番私にたりないのが女性らしさかもしれませんが」と苦笑しながら、「年代を問わず、女性客が全体の7割を占めるというホテルだけに、室内の設計についても自分が使う立場で、家具の安全性や使い勝手などを一つひとつチェックしました」と振り返る。
 女性らしさだけでなく、「京都らしさ」もこのホテルのテーマのひとつで、エントランス、ロビー、廊下など、共用スペースのそこここに、西陣や友禅を用いたファブリック、京手ぬぐいアート、小紋柄をあしらったサインなどがさりげなくちりばめられている。
 客室数は全部で368室。標準的な「ツイン」、ワイドスパンで開口部を大きくとった「ワイドツイン」、グループや家族向けに4つベッドが並んだユニークな部屋もある「デラックス」、各階に1室ずつある角部屋の「コーナーツイン」などのタイプがある。
 天井高2.5mを確保した室内は、奥行きが浅いながらも間口が広く1室にふたつ以上の窓があり、線路という貴重な空地に囲まれているので、コンパクトながらいずれも非常に明るく開放的。なんといっても壮観なのは「コーナーツイン」からの景色。近鉄線とJRの在来線や東海道新幹線がひっきりなしに行き交うさまが、2面の窓から眼下に見える。鉄道ファンならずとも、日がな一日眺めていたくなること請け合いで、気になる音もファンには少々もの足りないほど静かだ。

  • 前へ
  • 2/3
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら