特集4/独学の建築家

合理主義と機能主義の狭間

 ル・コルビュジエをはじめとした近代建築の担い手たちが、その時代の要請から客観的な調和や合理性を展開させることを使命としながらも、一方で人間の有機的な身体や感情の機能を生涯忘れなかったように、大きくは現代でも合理主義と機能主義の狭間に建築家たちはいるだろう。個人と向き合った機能主義が見直されながらも、プロポーションを合理的に整理した建築美への想いも廃れてはいない。おそらく現代においても依然として、どちらか一方の方法が正しいということはなく、その往還を理解し、いかに状況に応じた表出ができるか、そこが問われているのではないだろうか。
 建築評論家の長谷川堯さんは、合理主義と機能主義は混同されがちだが、本来はまったく違うものだと主張している。手嶋さんは、その設計プロセスをみると両者の違いをよく理解し、合理的な案と機能的な案を並走させ、天秤にかけるかのように、それらの表出を巧みにうかがい、設計を進めているようだ。
 設計主旨を聞かれたとき、手嶋さんはこれからも迷いなく「ご家族が心安く住める家」と機能重視であることを表明するだろうし、それが手嶋さんの建築、そして手嶋さん自身の魅力だと思う。しかし一方で、じつは合理的な明朗性から来る建築美も随所に忍ばせようとする別な側面が、手嶋建築の力を大いに増しているにちがいない、とも同時に思うのである。


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