ケーススタディ1

構造解析や
ディテールも独自に

 しかし、単純で合理的な構成であったとしても、H形鋼を積層させて住宅をつくる経験など、人類はほとんどしたことがない。そのため、構造の解析やディテールは、独自に考えなければならなかったという。
 まず構造は、既存の解析モデルを適用して解いている。H形鋼の積層というと、解析が複雑そうに思えるが、隅のH形鋼が直交する箇所を、擬似的な柱とみなせるため、柱梁の単純な構造解析モデルに還元されるのだそうだ。その際、H形鋼端部のウェブの直交方向にリブを溶接することで、ウェブの座屈に抵抗するとともに、隅を十字柱とみなせるようにしている。確かに、そう説明されると、隅が柱のようにも見えてくる。構造家・佐藤淳さんとの協働による成果である。
 そして、見るからに心配になるヒートブリッジについては、H形鋼の外側の凹みに断熱材を仕込み、フランジ部分には断熱塗料を施すことで、対策を講じている。炎天下でも、鉄が熱くなったりすることはないそうである。また、その断熱材とウェブのあいだに空隙をつくり、そこに配線や配管をしている。H形鋼が現しになっているため、通常の配線・配管のスペースである壁の中がない。そのために考え出されたディテールでもある。
 施工が容易で、工期が短縮される合理的な構法であっても、設計には苦労が見てとれる。何事にもいえることかもしれないが、プロジェクト全体をスムーズに効率的に動かすためには、初手となる構想段階において、非効率的に時間をかけて行動せざるをえないことがある。新しい構法への挑戦も、一般的な定石を用いない以上、時間をかけた労力が必要である。しかし、それを乗り越えた意志は、時に具象化し、霧散するわけではない。


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