インタビュー

構法とは何か

文=伏見唯

 今号の特集で扱う「構法」という言葉は、辞書には「建築の実体の構成方法」(『建築大辞典 第2版』彰国社)とある。建築構法を専門とする松村秀一氏(東京大学教授)によると、「構造部分と非構造部分を含めた建築全体の組立て方」とも説明できるという。しかし、誤解を生みやすく、解釈にも幅のある言葉なので、松村氏へのヒアリングを踏まえ、ここに簡単な注釈を記しておきたい。
 まず、「構造」という言葉との関係から。一般的に「構造」は、「いくつかの材料を組み合わせてこしらえられたもの。また、そのしくみ。くみたて」(『広辞苑 第6版』岩波書店)とあるから、「構法」と「構造」は、とても似た意味である。「社会の構造」や「組織の構造」などというときの「構造」は、「構法」と似たニュアンスをもった広い意味合いになる。しかし、建築分野においての「構造」は、柱や梁などの建築の主たる構造、つまり「主体構造」を意味する場合がほとんどである。そのとき、主体構造ではない、サッシやフローリングなどは「非構造部分」などと呼ばれ、「構造」という言葉は狭義に扱われている。一方で「構法」は、「構造部分」だけでなく「非構造部分」も含めた、建築全体の構成方法を指すという。
 また、「空間」の思考とは距離を感じる言葉でもある。建築設計においては、材料などの「物質」の構成とともに、それによって生まれる「空間」の構成も思考されているだろう。しかし、「構法」は、あくまで「物質」の構成方法を意味する言葉であるという。そのため、「実体」の構成方法という説明がなされる。
 最後に、「工法」との関係について。「工法」の意味は、「建物の組立て方、造り方、施工の方法」(『建築大辞典 第2版』彰国社)とある。構成方法というより、現場での具体的な工事の方法という意味合いの強い言葉だろう。しかし、施工は建築の構成ありきで考えられるものであり、建築の構成もまた、施工の方法を含めて考えられるものであるから、「構法」(通称・かまえこうほう)と「工法」(通称・えこうほう)は、意味合いを包摂、あるいは共有している関係の言葉同士だと考えられる。
「構法」は、戦後に石膏ボードやアルミサッシなどの新建材が次々と日本で使われはじめ、いわば定石のないなかで、建築をどう構成すればよいかを検討していた時代に浸透した言葉と分野だといわれている。この時代は、構法を考えることが建築業界で求められ、いわばメインストリームだっただろう。今では建築の構成方法には、普及した定石がある。しかし、その定石を見直すと、これまでには気づかなかった可能性が浮上してくるかもしれない。

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