じつは、この建物の設計期間中にはまだ商品は試作品の段階で、発売時期は決まっていなかった。が、展示会の参考出品や商品チラシから開発情報を知った足立さんや伊藤さんは、入居者の排泄の自立とトイレのあり方について頭を悩ませていただけに、なんとかこの建物に採用できないか、設計完了までに詳細仕様が決まらないかと相談をもちかけ、ぎりぎりのタイミングで実現したのだそうだ。伊藤さんたちが試作品を見て、建築にどう組み込むか、さまざまな意見交換を行った結果がカタログの施工図にも反映されている。TOTOの研究開発担当者、松下幸之助さんは、「われわれ研究開発者は製品自体のことはわかっても、建築や給排水管などの設備との取り合いについては想像もつかない部分が多いので、かなりヒントをいただきました」と語る。
足立さんは目下、このトイレをうまく活用した一歩先の介護も考えているとのこと。
「トイレをわざとベッドから離して、少し歩いていただこうかなあと。お年寄りはトイレに行く回数が多いので、知らず知らず下肢筋力が強くなり、元気になるかもしれません」
ちなみに、松下さんは最近、高齢者の排泄行動を調べるため、使用者に協力をお願いし、便器に取り付けた機械で使用状況を詳細に記録しているという。それによると、個人差は大きいが、なかには朝の2〜6時のあいだに1時間おきで、1日に計18回トイレに行く人もいて、1回に20〜30分座る人も珍しくないというから驚きだ。いかに高齢者にとってトイレが重要であるかがわかる。
伊藤さんは、反省と期待を込めてこう述べる。
「今回は時間切れで、とりあえず従来のプランに取り込んだだけで終わってしまいましたが、かつて汲み取り式の時代には廊下の突き当たりにないとあかんかったトイレの位置が、水洗になったことで変わったように、このトイレができたことで、建築の新しい平面が生まれたらいいなと思っています」
伊藤さんとともに設計を担当した丸川景子さんは、試作品を設置している施設の女性理事に聞いた話が印象に残っているという。
「いかにもトイレがいきなり部屋に置いてあるように見えるのは違和感がある。普段は隠しておいて、使うときだけ引っぱり出してくるとか、あるいは置いてあってもトイレであることがわからないような家具のようなものができるといい、とおっしゃっていました」
大きな一歩を踏み出した「ベッドサイド水洗トイレ」ではあるが、まだまだ進化の余地がありそうだ。次なる新製品の開発に余念がない松下さんは、「次作に期待していてください」と、笑顔とともに自信をのぞかせた。
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