アト・ザ・チャールズ・ブリッジ 
屋根裏部屋で小公女気分 ヴィレッジ・ロッジ ホームページ へ

『TOTO通信』が500号だという。ご同慶の至り。関係者のご努力に心から敬意を表したい。「旅のバスルーム」もよく回を重ねることができて、感謝申し上げたい。登場頻度の高い国は、やはりアメリカ、次いでフランス、ドイツ、スペイン、中国……。最近はアジアが多い。
 今回もブータン。空港があるパロ。
 このホテルはブータンの旅行会社が経営していて、旅行客によい印象を与えるように旅の最後の日に泊めるのだと聞いた。
 建物が遠くに見えるような田んぼの前に車が停まり、あぜ道を延々と歩かせるというアプローチ。「えっ、あれが今日の宿?」と軽い驚きを抱くとともに、ちょっと不安にさせる。
 石を積んで土で塗り込めた塀。ブータン・レッドの門扉。小さな前庭。建物は3階建て。アースカラーのコンクリート化粧打放しに、伝統的な窓まわりの装飾を施した外観だが、隣の民家とほとんど同じ。全部で9室というスモール・ロッジ。
 立派な館名などない。広いロビーではなく、仏壇のある居間のようなラウンジに通される。古く厚い床板。これはまるで住宅だ。事務室には机ひとつに携帯電話が置いてあるだけ。民族衣装の「キラ」をまとった女性がひとり、はにかみながらニコニコとしていた。
 宿泊室はどの部屋も2面に窓がある。古い伝統的意匠。そこかしこがじつにうまい。スケール感もよく、あたたかさがある。デザインにブータンへの理解と愛情を感じる。バスルームは床暖房で、器具は絶妙なレイアウト。最新の水栓を使っていて安心させる。気に入ったのはガター(排水溝)。グレーチングなんて野暮なものを使わず、幅のある溝に川原の丸い石をたくさん入れているだけ。自然が入り込んだうまさ。これは建物の外構にもあった。
 各階を探検し、おそらくこうだろうという平面をとる。レターペーパーなどない。6m角の4部屋だけの田の字プランに2.5m幅の中廊下。1階のラウンジもダイニングルームもキッチンも客室と同じ大きさというシンプルさ。バーだけ別棟。9室だからこれができる。ダイニングルームの料理内容も期待を裏切らない。
 田園の真っただ中、稲穂をわたる風を肌に感じながらいい気持ちでスケッチ。ブータンが保存と開発のバランスに苦しんでいると前に書いたが、旅の最後に、まだ捨てたものじゃないと思わせた。それに、ここにはホテル・サービスの原型があって商売っ気みたいなものがない。明日は帰路につくという日のサヨナラ逆転ホームラン。ねらいどおりにはまってしまって、旅行会社のもくろみは大成功であった。


  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら