こんな部屋に泊まった。
チェコ共和国は首都プラハの真ん中、ヴルタヴァ(モルダウ)川に重厚な古い橋がかかっている。カレルは、カール、シャルル、チャールズなどと同じこととはいえ、あの橋は英語読みにチャールズ橋というと感じが出ない。やはり「カレル橋」である。
その橋のたもと、左岸のカンパ島にあるホテル。改装と聞いてチェック・イン。赤瓦、濃い黄色に塗った外壁、質素でコンパクトな4階建てのとてもリーズナブルな価格のエコノミーホテル。その最上階の屋根裏部屋は小屋裏があらわし。屋根を支える登り梁に、したたかに頭を打った。そして恐ろしく長い平面。9300㎜もあり、一番奥にベッドがある。ドーマー(*1)がふたつあるだけ。なんとなく寂しく、長逗留ではないのだがちょっとした小公女(*2)気分を味わえる。バスルームにはバスタブがなくて市販のシャワーユニットが置いてあるだけ。
ホテルの前は小さな広場になっていてカレル橋から直接階段で降りられる。カレル橋というのはたいへん立派で長さは515mあり、幅は9.5m。45年もかかって建設された。橋というようなものではなく、川にこそかかっているが大きな道。塔が3つもある。両側にはたくさんの大きな彫刻。もちろん石造で、騎馬が城に向かって疾駆していたことがよくわかる。蹄の音も聞こえそう。カレル橋を手前にして夜のプラハ城を望むと絵葉書のようだが、なかなかのものだ。
川には観光用ボートが着く桟橋があり、客用のレストランもある。裏側には水車なども残っていて、対岸の旧市街は新しい開発が許されないが、ここは改装で観光拠点にしようという意図があるのだろうとみた。
プラハ城や大聖堂、市内全域を見下ろすことができる修道院にも徒歩で行くことができる。もちろんカレル橋をわたって旧市街の重厚な広場も近い。いい立地だ。
壮大な建築や立派な広場、映画「アマデウス(*3)」もこの地で撮ったというところなどを見て歩くと確かにおなかがいっぱいになるのだが、たくさんある土産物屋の品揃えはちょっと首をかしげざるをえない。ガーネット(ざくろ石)や琥珀(*4)などが並んでいるのはわかるのだが、どうしてこんなにマトリョーシカ(*5)がいっぱいあるのか。
それから「キュビズム建築(*6)」といわれるものがいくつか市内にあって、これをどうとらえてよいか私にはわからない。とてもヘンなものだ。キュビズムとして絵画で立体に挑戦したのはわかるが、建築という立体ではどうもヘンなのだ……と思う。
ホテルのレストランにピルスナー・ビール(*7)を飲みに行った。室内はレンガをはつって雰囲気を出してはいるものの、大きな骨付き肉をただゆでただけで味もないという粗野な料理には驚いた。要注意。
- *1
- Domer:傾斜した屋根に採光・換気のために取り付けられる窓。垂直に付けられることが多い。
- *2
- 小公女 A Little Princess:アメリカの小説家フランシス・ホジソン・バーネットにより1888年に書かれた児童文学。裕福な家庭に育ったセーラが父の死後、屋根裏で生活する物語。
- *3
- アマデウス:1984年制作の米映画。サリエリとモーツアルトの葛藤を描き、アカデミー賞8部門を受賞。
- *4
- 琥珀 amber:樹脂が長いあいだに固化した宝石、たまに虫が入ったものがある。
- *5
- マトリョーシカ:ロシアの人形、6重くらいの「入れ子」になっている。
- *6
- キュビズム建築:20世紀初頭のキュビズム芸術を建築で表したといわれる。チェコでしか見られない。作家にヨゼフ・ホルル、ヨゼフ・ゴチャール、パヴェル・ヤナークなど。
- *7
- ピルスナー・ビール:硬水の多いヨーロッパにあって、チェコ・ボヘミアの軟水を使った淡い色のビールがピルゼンで醸造された。





