特集

明るく開放的な増築棟。キッチンでもあり、今後は食を介した集いの場として使用することも想定している。 写真/川辺明伸

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O project特集/主屋を変革する増築

『TOTO通信』2022年春号では「主屋を変革する増築」という特集を企画しました。
過去の人から受け継いだ建築に新たに増築をするとき、主屋の建築のあり方を生まれ変わらせるようなアイデアがあります。
春号にあわせて公開される本動画では、宮城島崇人さんの「O project」を紹介。増築によって生まれ変わった住宅です。 再生時間/2:57

2022年 春号 主屋を変革する増築‑ CaseStudy#1‑光の軀体が主屋を明るく

作品/「O project」
設計/宮城島崇人

宮城島崇人さんが提案した増築棟は閉鎖的だった主屋に光を取り込みながら同時に公園や近隣へとコミュニティを拡張する。

ダイニングから見た増築棟は、明るさと段差でサンルームのようにも見える。 写真/川辺明伸
増築棟の大きな窓を通して、光が主屋の奥にまで届くようになった。 写真/川辺明伸

 その街中の公園には、日常と非日常のはざまにたたずむように、小さな建築が立っている。地面から浮遊した赤茶色の軀体は、水平に連なる大開口をもち、そこからは住宅のスケールを凌駕した2本のコンクリートの柱がシンメトリーに立っているさまが垣間見え、公園のパビリオンのような印象を受ける。しかし、背後には北海道でよく見られる2×4住宅(木造枠組壁工法)が立っており、道路側にまわれば、この2×4住宅が主屋で、軀体が増築棟であることがわかる。
 主屋の増築でありながら公園の増築にも見て取れる両義的なあり方。「O project」は、増築という行為の意義をあらためて投げかけるものだ。

食と暮らしのラボラトリー

「増築は僕からの提案でした」と語るのは、宮城島崇人さん。住まい手は北海道で育児休暇を過ごしたことをきっかけに東京から札幌に移住、公園の一角という立地に惹かれて築23 年の2×4住宅を購入した。夫妻は食にまつわる仕事に携わり、北海道の素材を使った食品の開発や料理を介したコミュニティづくりなどを思い描き、集いの場ともなる広いキッチンと仕事場、そしてライブラリーを備えた、食と暮らしのラボラトリーのような住まいが求められた。
 ただし建坪30坪の2階建てでは面積的に要件を満たせない。また2×4住宅は構造芯上の壁を動かしづらくプランニングも制約を受け、閉鎖的で採光も得にくい。さらに既存住宅の公園側にある庭には人目を阻むような高いフェンスが立ち、公園の開放的な環境と相容れない――これらの課題を解決する方法が増築だった。
 増築したのは公園側の庭に設けた、9・3坪のRC造のキッチン棟。500㎜ 角の鉄筋コンクリート柱を2本立ち上げることで、地上から1・2m浮かせた床スラブを支え、屋上はファームガーデンとした。主屋とはエキスパンションジョイントでつなぎ、1階は仕様の規定上、最大限とれる4m幅の開口を設けて増築棟と行き来する。
 主屋のプランニングは増築棟を主軸に手を入れる方針として、キッチン棟に隣接してダイニングを配置。さらに既存の構造壁を生かしてワークスペースとライブラリーを設けた。また1階にあった浴室・洗面室は2階に上げて、水まわり空間を屋上菜園のバックスペースとして使い、庭仕事に役立つように。構造的な制約はあれども、主屋は1階、2階ともに、増築したキッチン棟と屋上菜園に至るアプローチとして再編成した。

ライブラリーからダイニングと増築棟を見る。 写真/川辺明伸
道路側。キッチン棟へ出入りがしやすいよう、右奥に新たに出入口を設けた。 写真/川辺明伸
2階ホールから洗面室、バルコニーを見る。さらに奥には、キッチン棟の屋上菜園。水やりや植物の手入れがしやすい動線に配慮した。 写真/川辺明伸

揺るぎない自立性を貫いて

「O project」を貫くのは、徹底した「自立性」だ。増築棟は主屋に従属するものではなく、主屋に対しても公園に対しても対等な関係を築くことができる、座標軸のような揺るぎない存在として位置付けた。
 増築棟を浮遊させる1・2mという高さも、公園から適度なプライバシーを確保しつつ、公園・主屋の双方から見たときにステージのような存在になることを意識して決定した寸法だ。増築棟は主屋から見れば一段高く設けられた、眩しく見上げるサンルーム。一方、公園から見ればパビリオンのようにも映り、主屋・公園どちらの環境に身を置くかで見え方やスケール感が変わってくる。
 増築棟と主屋の自立性を獲得するうえでは、構造的に互いに自立しているだけでなく、増築棟は工法も外観もあえて主屋を踏襲していない。主屋の外壁は大量生産された規格住宅の面影を残したままだ。何らかの歴史性が見出せるならまだしも、手を入れたくなるのが建築家の性では――と思うものの、「高気密・高断熱を実現しやすい2×4住宅は北海道で普及し、住宅地の景観を形成してきました。ただその事実をわざわざ否定しなくてもよいと思うのですね。むしろ残すことで、主屋と増築棟の自立した関係性が明瞭になり、互いを引き立て合うと考えました」と宮城島さんは語る。
ディテールも、増築棟・主屋それぞれ異なる空間の特性が表現できるように注力。増築棟はコンクリート打放しやガラスなど硬質な材料を素で使い、主屋はシナ合板や土壁など軽やかさや温もりのある材料をアッセンブルしている。
 光という点でも対照的だ。ガラス面から日差しがふんだんに入る開放的な増築棟に対し、主屋は公園の木立や空や光がやわらかく入り込む心地よい空間に。オープンな増築棟の存在により、かつての均質で薄暗かった主屋が、守られた落ち着きのある居場所に生まれ変わった。性質の異なる増築棟が隣に来ることで、既存の主屋は変革されるのだ。
 ところで宮城島さんは、明るくて開放感ある増築棟をなぜリビングにしなかったのか、と問われることがあるという。「ほどよいこもり感のある空間のほうが寛ぎやすいでしょう。キッチンはクリエイティブな行為を営む場所だから、アクティブな公園と相性がいいし、開放的なほうが気持ちよく作業できるものですから」。
 この増築棟がいずれ集いの場として使われるようになれば、公園を訪れる人が住宅と関係を結ぶことができ、公園にとっても住宅が閉じずに開いているほうがよいはずだ――そんなインタラクティブな関係を「自立性」というテーマをもって宮城島さんは描き出そうとしている。

西側夕景。地面から1.2m浮かせた床スラブを、500㎜角の鉄筋コンクリート柱2本が支えている。 写真/川辺明伸
敷地を囲んでいる背の高いフェンスを、公園管理者と協議のうえで一部撤去した。 写真/川辺明伸
暗くなるとキッチン棟が、公園をやわらかく照らす。 写真/川辺明伸

小さな増築が変える
人の営み、風景、――そして文化へ

「O project」が見据えるものは、公園が表象する自然と公共性のさらなる先にある「環境」という概念だ。「僕らが身を置いている世界って、性質の異なるものがレイアウトされてできているでしょう。だったら臆せず、性質の違うものを並べようという気になって」と宮城島さん。「O project 」だけでも、RC造と木造、そして公園と、3つの異質な要素が存在する。さらに都市に視点を広げれば、そのエレメントは数えきれないほど。敷地内で設計を完結させず、広大な環境の一部にあるものとして建築を逆照射すると、世界は格段に広がって見えてくる。
 そこでもキーワードとなるのが、「自立性」だ。宮城島さん自身はコンテクスチュアリズムには否定的で、「いかにコンテクストに働きかけて変えるか」という創発的なスタンスでありたい、という想いを抱いている。
「誤解を恐れずに言えば、今の都市環境をそれほど信頼していないのです。とくに僕の拠点である北海道は、近代の歴史も150年ほどのもので、守らなければならないものは少ない。むしろ、もっとアバンギャルドになっていいんじゃないか、とも思っています。そのほうが暮らしも自由になり、環境そのものも豊かになる可能性を秘めているのではないでしょうか」
 ただし個人の所有財産である住宅が社会との接点を獲得するうえでは、たたずまいのあり方は問われるところだ。過ぎた前衛は、景観や街並みに対して建築家のエゴとして受け止められる懸念はないだろうか。しかし宮城島さんはおおらかに笑ってこう語る。
「北海道では一時期、各地に公共施設としてガラス張りの植物園がつくられたものでした。真冬は氷点下になるにもかかわらず常夏を楽しみたいという人間の欲望の所産で、エコロジー的にも褒められたものではありません。けれども僕にはそうした欲望は人の力強さとして、とても魅力的に映るんです。建築家の倫理観のみで生にあふれる空間を否定するべきではないし、むしろそうした生きる力を建築で引き出したい。異物をつくることを恐れず建築に向き合うことで、人の営みが変わり、風景が変わり、いつか文化として根付いていく。建築を通してそんな手助けができれば――と思っています」
 約9坪の小さな増築には、北の広大な大地のフロンティア・スピリットが宿っている。

O project 写真/川辺明伸

増築前の内観(Before)

増築前の内観(Before) 提供/宮城島崇人建築設計事務所

改修前の1階、南面。出窓の外に見える庭に、今回増築を行った。

  • 宮城島崇人氏の画像

    宮城島崇人Miyagishima Takahito

    みやぎしま・たかひと/1986年北海道生まれ。2011年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。同年マドリード建築大学(ETSAM)奨学生。13年宮城島崇人建築設計事務所設立。おもな作品=「サラブレッド牧場の建築群」(16~)、「山裾の家」(18)、「酒蔵の米倉庫」(22)など。