特集

東南を見る。竣工からわずか2年とは思えないほどに植物たちは成長し、建築とともに地域の景観の一部となった。 写真/傍島利浩

2022年 新春号 植物と建築の融合‑ CaseStudy#4 ‑植物×オフィスビル
造園を通して地域とオフィスをつなぐ

作品/「LIGUNA/0」
設計/川原田康子+比嘉武彦(kwhgアーキテクツ)
植栽/湊 眞人(耕水)

植物由来のスキンケアメーカーのオフィスビル「LIGUNA/0」。
木や森を意味するというLIGUNAの言葉どおり、地域に根づき、植物を介したコミュニケーションをこの地に生み出しつつある。

竣工 2019/11

竣工 2019/11 提供/kwhgアーキテクツ

内から外への循環を意識して

この「LIGUNA/0」の「0」にはどのような意味が込められているのでしょうか。

比嘉武彦LIGUNAは化粧品を扱うメーカーです。「LIGUNA/0」はその本社で、建築名についた「0」はスタートの意味をもっています。また1階に誰もが利用できるレストラン(社員食堂)、2階に「香りの図書館」というライブラリー、さらに3階にコワーキングスペースがあります。そうしたことからもわかるとおり、化粧品にとどまらず、いろんなものを巻き込んでいく企業です。

川原田康子前に代表の方とは、ここをきっかけに「LIGUNA/1、2」と展開していけるとおもしろいよね、と話していました。また別の地域に展開するのではなく、この東小金井の狭い地域にポツポツと立ち並ぶのがいいね、と。ちょうど街に木が生えていくイメージです。

比嘉この建築はプロポーザルから始まりました。最初に要求されていた機能から、今はずいぶん変わっています。設計では苦労しましたが、そうした変化も許容する会社です。製品もぜんぶ植物由来ですから、会社がもう植物なのかもしれません(笑)。

擬木やスチールの方立に、ツル性の植物が自然にからんで、建築と一体化している。足元の花々が、季節ごとに異なる表情を与える。 写真/傍島利浩
藤のツルが、1階からついに屋上にも到達した。来年の春先には、建物が藤色に彩られる。 写真/傍島利浩

特徴は、なんといっても外壁にからまる植物ですよね。このイメージはどこから来たのでしょう。

比嘉LIGUNAの代表に、今一番好きな本は何かと尋ねたんです。そうしたら手塚治虫の『ブッダ』だと。そこでブッダが悟りを開いた「ピッパラの木」の話で盛り上がりました。ブッダがその巨木の足元で瞑想に入る、あの有名なシーンでは、鳥や虫までもが集まってきます。それがインスピレーションとなりました。
 じつは最初の提案では、今階段室となっている真ん中の空間が中庭で、ここに巨木が生えているイメージでした。木の枝が外に張り出して、それが建物全体を包むイメージです。内側から外側に、循環する流れを意識していました。

川原田案は変わりましたが、流れの意識は変わっていません。最終的には中心を螺旋階段がまわっていますが、これは木のメタファーが残っているように思えます。また、この周辺は小金井(黄金井)という地名からもわかるとおり、地下水が豊富です。そこで地下水も使おうということになりました。年中一定した地下水の熱を冷気に変換し、階段室の輻射パネルから放出します。さらにその水を屋上に溜め、植物の散水に使う。また、階段室に設けられた空調の吹出し口にはアロマが置け、香りのついた空気が建築を満たします。水や空気、それに人が真ん中から外へと循環しています。

2階のメンテナンス用のデッキ。風通しもよく、間近で植物の状態を確認できる。 写真/傍島利浩
長期を想定した植栽計画ながら、意図的に成長の早い植物を織り交ぜたことで、短期間ながら豊かな環境を実現した。 写真/傍島利浩

植えてみなければわからない

造園家の湊眞人さんとの協働は、どのように始まったのでしょうか。

比嘉プロポーザルが終わった後、協働していただける方を探しました。じつは、湊さんとはそれまでお仕事をご一緒したことはありません。植物を使うといってもオシャレなものではなく、つねに流動していてワイルドなイメージをもっていました。そのとき、川原田が住宅雑誌で湊さんの仕事を見つけたんです。

川原田じつはお願いする前に湊さんの事務所をネット地図で見たんです。そうしたら、植物が自由に生い茂っていて、とてもワイルドで……。

湊眞人妻にはいつも叱られています(笑)。最初にお会いしたときに、1年後と2年後、それに10年後の景色はまったく異なるものになります。もし最終的な景色を想定し、それを追いかけるようにつくるのなら、それは私にはできませんとお伝えしました。するとメンテナンスも含めて依頼してくださった。それなら長い目で見てできることを期待されていると思いました。

比嘉これまで手がけた公共建築で、計画した植栽がメンテナンスされず、ひどい状態になるという経験をしました。そこで「LIGUNA/0」では、その後のメンテナンスもかかわっていただくことにしたのです。湊さんとLIGUNAの代表とが初めて顔を合わせたときの、お互いの熱がシンクロしていく様子を今でも覚えています。
そのとき湊さんは「土に植えないと、どうなるかわかりません」と言うのです。だから、あえて雑多に植えて、調整しながら競合させましょうとおっしゃったのです。何か生態系をつくるような話で、これはすごいぞと思いました。

川原田そうした生態系のイメージは、まさにLIGUNAのイメージと一致する気がしましたね。

私も若い頃に公共の仕事に携わる機会が多くありました。しかし、その後に見る影もなくなってしまう。そんな仕事を繰り返すなかでのご依頼でした。生き物が相手ですから、今と10年先、20年先ではすべきことは当然異なります。10歳の子にすることを、1歳の子にしていたらおかしいでしょう。それと同じです。

鉢植えをはじめ、屋上にも豊かな植栽が。また、地下水を屋上に溜めて、植物へ散水する仕組みも設計されている。 写真/傍島利浩
1階のレストラン。商品紹介のブースも設けられている。 写真/傍島利浩
レストラン前のテラス。外壁と緑化面に挟まれた心地よい空間になっている。 写真/傍島利浩

植物を介して建築とコミュニティが親和する

「LIGUNA/0」は、積年の思いを叶える仕事でもあったわけですね。

建築家とクライアントのおかげです。「植物のことだから、どうなるかわかりませんよ」なんて言えるのは、この歳になってしまったからでしょうね(笑)。私はこの「LIGUNA/0」の壁面は「庭」だと考えています。そして、私にとって庭とは人間と自然とのあいだの精神を表現する場です。また地域との接点、時代との接点、建築と街との接点など、さまざまな中間を調停するものだと思っています。
 最初に川原田さんが書かれていた植栽計画を見ましたが、正直驚きました。レベルが高く、本当に植物のことをご存知でした。一方で、成長率を考えると生い茂るまでに時間がかかりすぎるとも思いました。クライアントは企業です。いくら長い目で見るとはいえ、いつまでも緑が充実しないというのでは具合が悪い。
 そこで一部の樹種を変え、早く成長する植物も混ぜました。そのひとつが藤です。早く茂ってほしいと願い、いつも来るたび「藤がんばれ」って応援していました。もう2年で屋上まで達しましたね。来年の春先には、きっと藤色で覆われます。また低木に西洋アジサイのアナベルを植えました。これも成長が早い植物です。このアナベルも藤も、あと数年したら抜いてしまうかもしれませんが。

え、抜いてしまうのですか。剪定ではなく?

川原田驚きますよね。いかに植えたものを維持するかがメンテナンスだと思っていました。湊さんは抜いてしまうとおっしゃるんです。

アナベルのような植物が茂りすぎると、下の草が成長できません。そのためにも抜いてしまう。抜けば「空いたぞ!」と一気に次の植物が成長しはじめます。
 メンテナンスをしていると、ここを通る方が声をかけてくれます。また違う植物が咲きましたね、と。近くの園児も花を楽しんでくれているし、レストランのスタッフが花を摘んでテーブルに活けてくれています。そしたらお客さんが「素敵、いただける?」なんて……そんな会話も含めて多様性といっていいのではないでしょうか。

比嘉私はこうした湊さんの考えは、建築の計画論を刷新できる話だと思っているんですよ。だから、湊さんの考えにふさわしい新しい言葉をつくりたい。少し前にジル・クレマンの『動いている庭』が話題になりましたよね。フランス人は、さすが言葉がうまいですね(笑)。でも、湊さんの感覚は時間を含む4次元的なもので、コミュニティも含むし、それに非常に立体的です。

植物を使うにあたり、設計上での工夫はありましたか。

比嘉意識したのは植物と建築との重層性です。建物の外周には植物をからませるための線材がついていますが、金属、木、擬木と材料はさまざまです。

川原田一律の素材でないのは植物のからみやすさもありますが、ファサードにリズムをもたせたかったからです。この建築自体も植物に見える、そうした植物との親和性を考えています。

それと最初にうかがったのは、どのように植物を生やしたいかです。早く縦の線を消したいか、あるいは面で植物を生やしていきたいか。それによっても樹種が異なります。
また時間の問題もあります。最初は下のほうがあまり育たないことも懸念されたので、低木を多く植えました。たとえば先ほどのアナベルに加え、ムクゲ、ヤマボウシなどです。一気に伸びるものと、グラウンドカバーになる純粋な草、それに加え低木を設けました。でも草が生い茂ってきたら、中木と低木は抜こうかなと思っています。

比嘉建築でもよくコミュニティの話題が出ますが、人のつながりばかりではきびしいなと思っています。一方で、どうなるかわからない庭をもっていることで自ずと寛容さが生まれてきますよね。それは、今社会も求めていることではないでしょうか。
 湊さんの仕事は、造園を通して地域全体とかかわることが特徴です。地域のケアラーとでもいうのでしょうか。虫が他所から来る、歩いてくる人が会話する、中で働いている人がいる。そんな風景を見ると、ここでは人も環境の一部にすぎないと思わされます。

日本では、住宅の面積に比べてあまりにも公園の面積が小さいのです。それなら、まず身近なところから変えていかなければしょうがありません。公園だけやって、都市の緑化だといっても絵に描いた餅じゃないですか。

階段室。動線のコアであり、設置された輻射パネルが建物内の空気を動かす。まさに建物イメージである「循環」のシンボル空間。 写真/傍島利浩
写真/傍島利浩

時間を止めないこれからの計画のあり方

今後、こうした植物と建築との融合を、展開したい場所はありますか。

比嘉やはり公共で同じことをやりたいですね。LIGUNAはユニークな企業なのでできました。しかし、公共の問題は残されています。一度つくったらノーメンテナンスでいこうみたいなレベルではいけません。計画とは、どこか時間を止めることを意味してしまっています。湊さんのように4次元でものを考えたいです。

川原田つくったときがベストみたいな建築のあり方は、変わってきますね。コントロールがきかないことはネガティブに語られますが、はたしてどうでしょうか。

最近は雑草と、雑草じゃないものの区別がよくわからないんです。昔は、雑草を刈り取って「ここはパターの練習ができるぞ」なんて自慢していたくらいでした。でも雑草にトンボが飛んできて、計画した植物には留まらなかったらどうでしょう。それを摘み取る気になれますか。造園家もこれまでは、どう自然をコントロールするかを考えてきました。でもそれは自分の想像の範囲でしかものがつくれないのですから、つまらない話です。相手の命は輝いているのに、それを無視してよいとは思えません。

比嘉やはりこの湊さんの考えに、何か名前を付けたいです(笑)。

3階コワーキングスペース 写真/傍島利浩
2階LIGUNAオフィス 写真/傍島利浩
植物やアロマ関連の書籍を集めた「香りの図書館」 写真/傍島利浩
LIGUNA/0 写真/傍島利浩
  • 川原田康子氏の画像

    川原田康子Kawaharada Yasuko

    かわはらだ・やすこ/1964年山口県生まれ。87年早稲田大学理工学部建築学科卒業。87~98年長谷川逸子・建築計画工房勤務。99~04年KwhDアーキテクツ主宰。05年比嘉武彦とkwhgアーキテクツ設立。

  • 比嘉武彦の画像

    比嘉武彦Higa Takehiko

    ひが・たけひこ/1961年沖縄県生まれ。86年京都大学工学部建築学科卒業。86~04年長谷川逸子・建築計画工房勤務。01~04年比嘉武彦建築研究所主宰。05年川原田康子とkwhgアーキテクツ設立。

kwhgアーキテクツのおもな作品=「武蔵野プレイス」(11)、「岐南町新庁舎」(15)、「桜川市立桃山学園」(18)など。

  • 湊 眞人氏の画像

    湊 眞人Minato Masahito

    みなと・まさひと/ 1950年神奈川県生まれ。74年宇都宮大学農学部卒業。綜合庭園研究室勤務を経て、05年耕水設立。多数の公共事業で造園・植栽計画を手がける。おもな造園作品=「戸田村はかま滝オートキャンプ場」(97)など。