特集

植栽は、今では建物を超える高さまで成長した。荻野さんが植えたものに加えて、風で種が運ばれて自生した野草もなじんでいる。 写真/桑田瑞穂

2022年 新春号 植物と建築の融合‑ CaseStudy#3 ‑植物×住宅
植物との共生にリアルに向き合う

作品/「森のすみか」
設計/前田圭介(UID)
植栽/荻野寿也(荻野景観設計)

「木を植えるというのは、覚悟をしてもらうこと」。
植物との共生は、想像以上に大変なことでもある。
その先に、植物と人間はどのような関係を結ぶことができるだろうか。

竣工 2010/11

竣工 2010/11 写真/上田 宏

自然に近い場所でどのように家をつくるか

「森のすみか」とはどのような住宅ですか。

前田圭介施主である母と娘ふたりの女性3人が猫と住む家です。敷地の真ん中に生えていた2本の栗の木を伐らずに取り囲むコートハウスのようなプランとし、南側にLDKを、テラスを挟んだ北側に個室を配置しています。女性3人なので、つかず離れず身近に気配が感じられるような距離感が望まれていました。
 生物のすみかにウチとソトという概念はありませんが、安定した場所はあります。そういうつくり方を人間の住まいでもできるといいなと思いました。そこで、コンクリートスラブがテーブルになったり床になったりベンチにもなるような、建築が人間の生活行為をアフォードするようにつくれれば、自然のありように近いすみかになるのではないかと考えて提案した住宅です。

前田さんはいつ頃から建築と植物の融合を意識するようになったのですか。

前田大学を出て5年ほど現場監督をやっていたのですが、そこで造園工事にとてもくわしい職人さんに出会って親しくなり、独立後もその方にアドバイスをもらって、「内海の家」(03)では50種類くらいの木を植えました。植物はただ眺めるためだけではなく、さまざまな建築とのかかわりあい方があることをあらためて学びました。

荻野さんはもともと造園設計ではなかったそうですね。

荻野寿也高校を卒業後、修業でゼネコンの現場監督として6年ほど勤めて実家の建材屋に戻りました。修業先での経験から将来は造園の仕事をしたいと思い、社内に「緑化部」をつくりました。当時、得意先のゴルフ場にバンカーの砂などを納品していたのですが、そのゴルフ場の改造工事を請け負うことになり、そこのグリーンキーパーの方の指導を仰ぎながら木の移植からグリーンの造形までさまざまなことを経験させてもらいました。そのキーパーの方とは日々一緒に仕事をし、海外の有名なゴルフ場の視察にも同行したのですが、向こうのゴルフ場はナチュラル志向でつくった感がない。その造園のあり方に共感し、僕の仕事の原点となりました。
 前田さんとは、「アトリエ・ビスクドール」(09)の際にお声がけいただき、それ以来12年の付き合いになります。

地下のアプローチから、テラスの屋根を突き抜けて成長した主木を見上げる荻野さんと前田さん。 写真/桑田瑞穂

前田さんは、設計の早い段階から荻野さんに相談をされるそうですね。

前田プロジェクトにもよりますが、スタディの初期段階から相談をさせてもらうこともありますし、設計を始める前に敷地を見てもらい、ここで何ができるだろうか、といったディスカッションに入ってもらって、建築の発想につながるアイデアをいただくこともあります。

「森のすみか」では敷地中央の栗の木を取り込む計画でしたね。

荻野僕が相談を受けたときはもう栗の木はありませんでした(笑)。

前田そうなんです。栗の木を残しながら設計をしていたのですが、施主から「栗の木はにおいもきついし、毬栗(いがぐり)もたくさん落ちるからちょっと」と言われ、やむなく伐ることにしました。ただ、残すものをよりどころにプランが生まれたという意味では、土地の記憶は継承できたと思っています。でも、栗の木のリアリティに負けたくやしさはありますよ(笑)。

中央の引き戸を右手の戸袋にしまうことで、半屋外のテラスと、リビング・ダイニングの空間が一体になる。 写真/桑田瑞穂
アプローチのグラウンドカバーには、シダやコケ類など、耐陰性のある植物が植えられている。 写真/桑田瑞穂

植物と暮らすには覚悟が必要

「森のすみか」の植栽設計についてお聞かせください。

荻野中庭には2種類の木を植えています。ひとつはヤマボウシで、成長が遅くコントロールしやすい木です。もうひとつはヤマモミジでこちらは成長が早い。その組み合わせで考えました。当初、中庭の木は屋根より低く納まる予定で、突き抜けるというのは前田さんのプランにはなかった。でも、僕はその樹木が建物の屋根を貫通して日傘となったほうがよいと提案しました。

野生が建築を突き抜けていく。1970年の大阪万博で、おまつり広場を太陽の塔が突き抜けていったことを思い出します。

一同(笑)。

荻野僕の一貫したテーマは、「原風景の再生」です。切り拓かれた土地を元の姿に戻していきたいという想いがいつもあります。

メンテナンスについてのかかわり方をお教えください。

荻野メンテナンスに手間がかからないことが僕たちの基本的な考え方ですが、ノーメンテにはできませんから、ワークショップと称して施主と一緒に植え込みをやっています。そこで水やりや剪定のしかたなどをお伝えします。引き渡し時には「プランツリスト」を作成してお渡ししています。そうした手引きをすると、みなさんやってくれます。そこは一番大事なところかなと思っています。ただ、幹や太い枝を伐るような大きな手入れのときだけは僕らを呼んでくださいとお願いしています。

竣工から10年が経って、現在の様子を見て、植栽についての考え方を振り返っていかがですか。

荻野植え足してもらったものも、こぼれ種から生えてきたものの残し加減もいい感じになっている。僕たちが植えていないものがボンボン生えている。もっと言ってしまえば、荒れ加減もすごくいい感じで、原風景が再生されているという印象です。

前田荻野さんはある程度の熟成感をもって庭を仕上げてくださるので、竣工直後でも品がいい感じにはなります。10年経ってみて、施主がいろいろな場所を工夫しながら住み、植物が熟しているのを見て、設計を超えた姿がすごくいいなと感じています。

植物と融合するということは、リアルな動物や昆虫とも同時に生きることを意味します。それを施主にはどのように理解してもらっていますか。

荻野セミの鳴き声を聞くと、うるさいと思う人と夏だなあと感じる人がいます。同じ虫でもリアルの受けとめ方はいろいろです。なので、いろいろなことが起きますよと最初の段階で話します。木を植えるというのは、覚悟をしてもらうことなんです。でも、それも植物と生きるときの楽しい部分なんですよ。そして、そういう部分こそ良質な情操教育にもなるのではないでしょうか。

前田僕も、植物が日々の暮らしをいかに豊かなものにしてくれるか、ただのインテリアとしてではなく生きているものとして付き合ってほしい、と話します。子どもと同じように、育てるという感覚をもってもらえるとうれしいですね。
 以前に「町-Building」(11)の施主から電話をもらって、なにごとかと思ったら「前田さん、ツツジを枯らしてしまった」という。もともとそういう人ではなかったので、変わったなあと思って訪ねたら、もうすっかりお子さんと植物を育てる姿になっていた。それってやはり建築ではできないことで、植物というものがすごく重要な要素だということをあらためて思いました。

キッチン・ダイニングでは、流しや作業台のコンクリートスラブが、テラス側では床になる。 写真/桑田瑞穂
テラスの主木であるヤマボウシとヤマモミジ。日の光が降り注ぐと、葉脈まで透き通って見える。 写真/桑田瑞穂

建築と自然は共生できるのか

そもそも建築物は自然環境から人間を守るためのものだといえますが、自然である植物と共生するということは、その定義と相反します。しかし現代のストレス社会では、人間が取り入れた植物に救済されるという状況です。人間生活のなかに植物はどれくらい入り込んできてもよいものなのでしょうか。

前田建築は確かに外部環境からのプロテクトを念頭につくられてきたと思いますし、欧米ではとくにその感覚が強いと思います。一方でアジアや日本では自然と適度に寄り添って生活してきた文化があります。ですから、日本の建築ならではの自然との寄り添い方について考えていくべきだと思います。
 自然を五感で感じることはとても大切だと思うのですが、一方で人間の側の受容能力が劣化しているようにも感じます。この先、人間を人間たらしめるような状態にするという意味では、やはり五感で感じて思考していくということがますます重要になるのではないでしょうか。なので、建築を通して環境をつくっていくうえでランドスケープはもはや切り離せない存在なのです。

荻野最近、若い人たちのあいだでひとりキャンプなどのアウトドアがはやっているでしょう。山のなかでテントを張ってひとりでキャンプをして、暑くても寒くても、それが楽しくてしようがないと言っている。もうすでに緑のある環境に戻ってきてくれているような気がしています。

建物の中にまで緑が入ってくる理由ってなんなんだろうと考えていたんですが、劣化しつつある現代人の五感を再生させるうえで他者である植物とのかかわりは重要であり、それゆえに建築と植物の融合が求められ、植物が家の中にまで入り込んできているんですね。
 一方で、植物にとっての理想状態である「極相」と建築は幸せな関係を取り結べるでしょうか。

荻野軽井沢にある吉村順三さんの山荘はカラマツ林のなかにあります。カラマツはすでに十分に成長していて足元は暗く、雑草が生えにくい。そこに何本かのモミジを足していますが、今ではもう植えた感じがまったくない。冬場は落ち葉のカーペットになってやがて自然に還る。安定した環境になっている。それを極相と呼んでいいかはわかりませんが、そういう姿が僕の目指す造園です。
 森林では雑草は少なく、そこに自生できるものだけが落ち着いた状態を形成します。なので僕は、木を植えるより、本当は森の中に建築を運んでいって落とし込みたいんです。

電力は再生可能エネルギーでまかない、水は井戸水、排水は浄化槽で済ませられれば、安定した森の環境のなかに人々が住み替えていくということもありえる。それならば、未来の住宅地計画が構想できそうですね。

荻野むちゃくちゃやりたいですね。ルイス・バラガンが溶岩地帯を住宅地に変えたようなことを、前田さんと森でやりたいですね。

マルバシャリンバイなど手前の植栽たちと建築のみにとどまらず、背後に広がる山々の自然とも融合している。 写真/桑田瑞穂
森のすみか 写真/桑田瑞穂
  • 前田圭介氏の画像

    前田圭介Maeda Keisuke

    まえだ・けいすけ/1974年広島県生まれ。98年国士舘大学工学部建築学科卒業。工務店での現場監督経験を経て、03年UID設立。おもな作品=「アトリエ・ビスクドール」(09)、「後山山荘」(13)、「群峰の森」(14)など。

  • 荻野寿也の画像

    荻野寿也Ogino Toshiya

    おぎの・としや/1960年大阪府生まれ。89年家業の荻野建材に入社、緑化部を設立。独学で造園を学ぶ。06年荻野寿也景観設計(現・荻野景観設計)設立。原風景再生をテーマに造園設計・施工を手がける。おもな造園作品=「アトリエ・ビスクドール」(09)、「下田の家」(12)、「三井ガーデンホテル京都新町別邸」(15)など。