特集

風景の中に次のアトリエの姿を夢想する。現在のアトリエから見える景色。中央の建物は、大室さんが営む「私立大室美術館」。次なる個室=アトリエは、その隣にそっとたたずむ塔状の建物、か。

2021年 夏号 個室の復権‑ 提案07 ‑作品名「個室でみる夢」

建築家/大室佑介


曖昧さこそ個室の魅力

大室さんが、個室といわれて思い描いたのはアトリエだ。
制作を行う職場でもあるが、休息や夢想といった、仕事とはまた異なる至極個人的な行為の場でもある。
作品への昇華・発散と、閉じこもった思索が行き来する場所こそがアトリエで、それこそ純粋かつ究極の個室かもしれない。


過去から未来までアトリエに向き合うこととは自分を見つめ直すことにもつながっている。

移り変わるその時々のアトリエ

使い勝手や居心地を丁寧に確かめながら、試行錯誤がされてきた。模様替えから改修、新設までレベルはさまざま。

2008~2010年 第1期

7畳ほどの部屋に、板と格安のカラーボックスを組み合わせて、机と本棚を設けた。南に庭を望み、もともとあった引き違いのアルミサッシをはずして板をはめ、躙り口のような小さな開口を設え、自身の出入りと、滅多にない来客の出入りとを分けていた。

2010年 第1.5期

新築で建物を建てる機会に恵まれないなか、自邸と称した小屋をつくった。1畳の個室や0.5畳のトイレ・収納などの個室を置けばどこでも家になると考え、空地や駐車場、畑の真ん中などで過ごし、計画案を練ったり、筆をとったりした。

2011~2015年 第2期

第1期のアトリエと隣室を隔てる壁を部分的に取り払い、机、壁面を使った本棚を新設した。庭に面する窓は木製の物に変え、躙り口ではない扉を設けた。広いスペースが確保できたため、打ち合わせや酒宴など、人の出入りがあるアトリエとなった。

2015年 第2.5期

自宅内に残されていた1.5畳ほどの小部屋を仕事場とし、熱さ寒さを耐えながら蠟燭のあかりで作業をした。2畳間で執筆を続けた私小説家・川崎長太郎への憧れと同時に、どこか公共の色合いがみえてきたアトリエスペースからの逃避でもあった。

2016年~ 第3期

三重県の山里に越し、岳父の残した家の屋根裏部屋を利用してアトリエとした。全6面とも合板現しの簡素な部屋で、南側の壁に設けられた小窓から、堅固な格子越しに外の風景が見えることが唯一の救いとなっている。

①… 展開図の番号が対応。

2021年 第3.5期

アトリエから見える風景の中にたたずむ、小さな塔状の建物の計画。工場を改修した「私立大室美術館」に隣接し、仕事場もしくは美術館として機能することを期待している。

私のアトリエ遍歴、今、これから。

 独立とは名ばかりの低空飛行を始めて12年、拠点を東京から三重に移して6年目になるが、そのあいだ、自宅の外に部屋を間借りすることなく、住まいの一室を改修し「アトリエ」として使いながら建築について考えてきた。職住一体というと聞こえはいいが、家賃や維持費の心配をせずに24時間いつでも仕事ができ、いつでもサボることのできる環境は、集中力と経済力を欠いた自身の性分に適しているらしく、幸か不幸か建築の仕事を続けることができている。
 現在身を置いている三重のアトリエは、岳父が残してくれた平屋建ての屋根裏部分にあたり、折り畳み式の梯子階段を使って出入りする。広さは10畳ほどあるものの、天井の高さが1・8m弱しかないため、ひとりで過ごしていても適度な圧迫感がある。壁三面はそれぞれ、読み書きその他の作業をするための机、検討用の模型とコレクションとしての模型が混在する模型棚、手元に置いておきたい本や画集が納められた本棚に充てられ、壁の所々には数葉の写真や絵、そして、季節や時間の動きを提供してくれる小さな窓が穿たれている。
 その窓から外を眺めながら、私は今、風景の中に小さな塔状の建物を夢想している。道を挟んだ休耕地の真ん中に立ち、広さは2畳ほど、高さは4・5mほどの細長いシルエットの簡素な木造の建物で、職人に依頼することなく自身の手でつくることになる。用途はとくに定めていない。机と椅子を置いて作業小屋にしてもいいし、本を持っていき読書をするのもいい。画家や彫刻家の作品を置けば美術館としても機能することだろう。
 自身にとって「アトリエ」は、事務所ほどオープンな場ではなく、書斎ほどクローズな場でもない、ほどよい距離に位置し、書くこと・読むこと・見る(眺める)ことの三つの行為を通じて、「大きな柔軟性があり、輪郭が不明瞭な夢想」(バシュラール)をするための場所である。

①ぎっしり本が並ぶ棚と窓
②読み書きや作業のための机
③広い合板の壁と扉
④模型がひしめく東側の棚
  • 大室佑介氏の画像

    大室佑介Omuro Yusuke

    おおむろ・ゆうすけ/1981年東京都生まれ。2007年多摩美術大学大学院美術研究科修士課程修了。07年磯崎新アトリエ。09年大室アトリエ/atelier Íchiku設立。おもな作品=「HAUS–004」(15)、「私小説家・川崎長太郎の物置小屋再建計画」(15)、「私立大室美術館」(15)。