特集

2021年 夏号 個室の復権‑ 提案05 ‑作品名「Nesting」

建築家/秋吉浩気+長岡 勉


「自分でつくれる」理想のアトリエ

秋吉さん率いるVUILDは、デジタル・ファブリケーションを駆使して、産業となり手を出せなくなった建築という行為を本来あるべき住み手のもとに取り戻すための提案を続けている。
一人ひとりが実現可能な工法というリアルと、こんな場所にこんな小屋がほしいという理想とが、絶妙なバランスで着地した。


これからの住まい方とは自分たちなりの価値観で場所やアクティビティを選び創造すること。

どんな要件も妥協しない本当の建築を

都会ではもつことが難しかったスタジオやアトリエを低コストで。快適だけど環境への負荷は最小限に。資本主義が犠牲にしてきたものを決してあきらめない方法を追求する家づくり。

プラモデル感覚で家を組み立てる

材料には地域の木材を使用。部品はモジュール化され3D加工機から出力される。一間ごとに配された頰杖型の構造体は簡単に上棟ができるので、家族や仲間とプラモデル感覚で家づくりを体験できる。

専用アプリであらゆる人を設計者に

床面積を決め、設備をセレクトしながら間取りを描いていくと、瞬時に家の形が立ち上がり、見積もりまでも提示してくれる。開口部の位置や建具の性能も選べるので、環境に合った家づくりが可能。

理想の個室づくりを支援する

 2019年に竣工した「まれびとの家」では、地域の森林資源を用いてデジタル加工機で建築部品を出力し、住民参加で建設を行うことで地域完結型の家づくりを実施することができた。この経験を踏まえて、現在VUILDでは住宅領域の新規事業の開発を行っている。
 想定している顧客体験としては、坪単価一万円以下の絶景の敷地のなかからお気に入りの場所を選び、独自に開発した住宅設計アプリを用いて施主自身の手で設計を行い、間取り・内装・仕上げ・外装などの詳細まで決定する。その後、敷地付近のデジタル加工機から出力された部品を受け取り、施主自身の手で建設を行うというものである。
 現在開発中の工法では、増改築への対応や、雁行配置にも対応できるシステムとしており、利用者は間口が2間か3間のものを選ぶことができる。1間ごとに頰杖型の構造体が配置され、これらを根元のピンを支持点として持ち上げることで上棟することができる。
 このような構造体によって形成された大空間の中に、設備コアのユニットと個室を配置することで設計が完了し、コア上部のロフトはセミプライベート空間、それ以外の空間はセミパブリック空間として定義される。この家の使われ方として、都心の密集地でもつことのできなかった「書斎」や「スタジオ」のような、自らの個性を解放し共有することのできる二拠点目としての利用を想定している。
 このように、自由に構想することで生まれる理想の住まいを、安く簡単につくることができる仕組みを提供することで、家づくりを一般の人々に開放していくことが、われわれのねらいである。当然のことながら、本特集の趣旨にあるような個室の復権というテーマもその射程にあるのだが、一拠点目のメインの居住地における小さな離れというよりは、都心から少し離れた広大なキャンバスの中に設置する「理想のアトリエ」として、必要最低限の水まわりと寝具を備えた小屋という個室を、ここでは提案したいと思う。

小規模ながら大空間を実現する工法の開発

組み立てが簡単なのに大空間を得ることができる構造のおかげで、ロフトまでも確保。空間内にも公私のグラデーションが。

  • 秋吉浩気氏の画像

    秋吉浩気Akiyoshi Koki

    あきよし・こうき/1988年大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科X–DESIGN領域にてデジタルファブリケーションを専攻。2017年にVUILD創業、「建築の民主化」を目指す。デジタルファブリケーションやソーシャルデザインなど、モノからコトまで幅広いデザイン領域をカバーする。おもな作品=「まれびとの家」(19)、「カヤックガーデンオフィス」(19)、「CAMPPOD」(20)。

  • 長岡勉氏の画像

    長岡 勉Nagaoka Ben

    ながおか・べん/1970年東京都生まれ。97年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。山下設計で活動後、99年にPOINTを設立。建築・インテリアの設計業務のほかに、シェアオフィス〈co-lab〉の設立に参加するなどの活動を行う。2020年4月からVUILDのメンバーとしても活動。現在、慶應義塾大学・武蔵野美術大学非常勤講師。

写真/Toru Hiraiwa(秋吉浩気のポートレイト)