特集

2021年 夏号 個室の復権‑ 提案03 ‑作品名「あざみ野の土」

建築家/Eureka


多世代住宅における「個室」とは

カフェやSNSの普及のおかげで「個」になることが容易な現代においては、住宅とはむしろ家族が集まるためにこそ必要な装置かもしれない。
そこに個室を設ける意味とは何か、どんな設計が必要なのか。
Eurekaは、論理的に答えを導く。


個室を求めていない多世代住宅に
私的な場所を自然に内在させるには。

approach 0
調整 Adjust

伸縮するワンルーム・ホーム

民家のように、大家族が暮らすひとつながりのワンルームとする。状況に応じ建具を開閉し、寝間・私室を構成することができ、療養の空間としても想定する。

approach 1
私化 Personalize

居間に組み込まれたパーソナル・ブース

在宅ワークのできるブースを、居間の周囲に設える。個人のための小さな機能空間を団らんの場に共存させる。

approach 2
分節 Segmentalize

不揃いなワンルーム

家族の空間へ、個人の居場所・時間を選びとり、確保するための設え。テクスチャー・色彩を切り替え、ワンルームの中に「個室」を意識させる。

更新時期にある
多世代住宅の未来を再編する

 神奈川県・あざみ野の台地に、両親のもと、子どもたち家族がともに暮らす多世代住宅における「個室」の計画。家族各人の個室を確保することのない、「集まること」「ともに暮らすこと」にプライオリティのある住宅での「個室」とは何か?
 住宅は、昭和40年代半ばにひな壇造成されたエリアに計画する。50年を経た今は更新時期にあり、同時に周囲の住宅開発も広がる。ひな壇造成された急斜宅地は、ともすると敷地内にも上り下りの激しいバリアフルな住環境となってしまう。このランドスケープを再編するように、道路とフラットで、地域に開放的なグランドレベルを計画し、斜面地形を室内外に取り込みながら、床がスキップし、上下階をつなぐ断面計画とする。
 この拡大家族は、健康な両親が60代後半を迎え、30代の子どもたちはそれぞれの家庭・家をもちながら、実家とを往復する関係を築いている。子ども家族はあざみ野に近居したり、孫とともに同居する。みなが集まる正月は15人が集う。住宅は、大きな家族が集散し、時とともに形を変えながら多世代居住していく場となる。
 家族が全員揃う食卓や、住宅全体が居間となるような空間など、「ハレの日」の前提条件に対して、六つのアプローチの重ね合わせを試みる。限りなく「個室」のない住宅に、いかに多元的に個人の帰属する空間や、暮らし・行為・意識・記憶を内在させうるかの試みである。

approach 3
内在 Internalize

同居する家族それぞれが「家」を内在化するマテリアル

建設やメンテナンスのプロセスへ、老若男女が参加可能な土材料・構法を導入する。土の触感(手触り)と、土仕上げの経年変化が、家族の暮らしを包み、個人の記憶に深く定着される。
※山田宮土理氏、中村航氏(建築材料・構法)と共働。

approach 4
公共 Deprivatize

住宅の公共性、非住宅化

住宅に穴をあけるように、地上階を客間と庭とともに、前面道路、住宅地に開く。血縁家族の居住専用住居に外部、他者を招き入れ、地域と住居を混交する。開くことが家族の中とは異なる、個人の多様な暮らしを実現する。

approach 5
適応 Revolutionize

ライフステージに応じ、住み継げるプランニング

老いを受けとめるように、接地階のみでの暮らしへシフトできる平面計画(二箇所の水まわり)とする。「終のすみか」として、客間・仏間が住宅における最後の「個室」となる。

広い平面を建具や段差で区切り
それぞれが個の場所になりえる空間に。

1階平面図

土間や庭を近隣に開けるとともに、土間→食堂→土の庭→擁壁上歩廊→居間→書斎と、外部を介した回遊性も備えている。

2階平面図
  • Eurekaの画像 左上:稲垣淳哉 右上:佐野哲史
    左下:永井拓生 右下:堀 英祐

    Eureka

    稲垣淳哉(いながき・じゅんや)、佐野哲史(さの・さとし)、永井拓生(ながい・たくお)、堀英祐(ほり・えいすけ)の4名が主宰する建築設計事務所。いずれも1980年生まれ、早稲田大学出身。稲垣・佐野が建築計画・意匠、永井が構造計画、堀が環境設備計画を担当。おもな作品=「感泣亭」(2012)、「Dragon Court Village」(13)、「Nagasaki Job Port」(18)、「奈義町多世代交流広場 ナギテラス」(19)。

写真/Ookura Hideki(稲垣淳哉、佐野哲史、永井拓生、堀 英祐のポートレイト)