特集

2021年 夏号 個室の復権‑ 提案02 ‑作品名「LDK+200C」

建築家/YSLA Architects


回遊によって“個室化”を促す

思考が行き詰まった際の散歩や軽い運動は、凝り固まった脳と体をほぐし、時に予想外のアイデアをも引き出すことがある。
山村さん、ナタリアさんは、回廊からデザインのヒントを得た。
建築が動きをアフォードして人間に“個室化”を促すという逆説的な発想が興味深い。


すぐに目を引く回廊のような空間。
これこそが、今回提案された閉じない個室。

Cはcorridor(廊下)とclaustro(回廊)をかけている。回廊を200周すると、人が一日に歩くべきとされる8kmに相当する。

mens sana in corpore sano

 200周は一日に人が必要とする距離である。
 COVID-19は日常のあらゆるシーンを変化させた。外を自由に歩くことが制限され、健康は住空間の見直しに必要なキーワードとなった。今回は、健康をテーマに考え、結果としてそれが「個室」の復権に新しい可能性をもつと考えるに至った。また、今後日本の各地で再考が必要となるマンションのリノベーションを前提に計画している。
 本計画の特徴は回廊的な空間である。そこが「個室」となる部分である。中世の修道院には、回廊空間が存在した。一般的に回廊はその空間的特徴が注目されるが、ここでは「ひとりで歩きまわる」ことに着目したい。西洋の修道僧は、個室から回廊へ出て、そこをぐるぐると歩きまわりながら思考を巡らせ、本を読み、自己と対面する個人的な空間として活用していた。日本では縁側の空間が同質の空間だといえる。共通するのはいずれも外部空間である点である。人は机に向かって考えるよりも、外を歩いているときのほうがよいアイデアが浮かぶ。そんな経験は誰しもがあるだろう。よって、「個室」は外部空間であることが重要であると考え、計画の端緒とした。
 また、家庭内でのディスタンスも新たな要素である。本計画では回廊の内側とそのさらに内側にもうひとつの個室が備えられている。その中間領域には水まわり、収納、玄関、坪庭などがまとめられている。つまり、内側の個室からも回廊の「個室」からも独立して生活できるようになっている。さらに、中間領域を介して、内側の個室の住人と「個室」の住人は距離を保ちつつ生活を共有することができる。本計画には二種類の個室を用意することで、豊かな生活像を描いている。
 個室ときいて閉じた個室は避けたいと考えた。ぐるぐるとまわることは、昔から人がひとりになるときに行っていた個室化の自発的な行為であった。健全な精神は運動なくしてありえず、開かれた場所を歩く空間こそ、「個室」が復権するためのカギであると考えて、一日に200周する「個室」を提案する。

昔から人はひとりぐるぐると歩きまわることで
思考を巡らせ自分と向き合っていた。

平面図

回廊と空間の中心部という、性格の異なるふたつの「個室」。それを仕切る/つなぐ中間領域には、水まわりや収納、坪庭などが納められている。

  • 山村 健氏の画像

    山村 健Yamamura Takeshi

    やまむら・たけし/1984年山形県生まれ。2006年早稲田大学理工学部建築学科卒業。06年バルセロナ建築大学留学。09年早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻修士課程修了。12年早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了(入江正之研究室)。12〜15年ドミニク・ペロー・アルシテクチュール勤務。16年YSLA設立。

  • ナタリア・サンツ・ラヴィーニャ氏の画像

    ナタリア・サンツ・ラヴィーニャNatalia Sanz Laviña

    1982年スペイン・バレンシア生まれ。2007年バルセロナ建築大学卒業。05~06年リスボン工科大学留学。07~16年隈研吾建築都市設計事務所勤務。16年YSLA設立。

YSLAのおもな作品=「Garden of Eden」(19)、「Light House」(20)。