最新水まわり物語

恵比寿東公園トイレ 白を基調とした清潔感のあるデザイン。 写真/大木大輔
神宮通公園トイレ 雨宿りできそうな深い軒下空間がある。 写真/大木大輔
東三丁目公衆トイレ 赤い折形でつくられたようなデザイン。 写真/大木大輔
西原一丁目公園トイレ すべて「だれでもトイレ」の広々としたトイレ。 写真/大木大輔

2021年 新春号地域のシンボルとなった公共トイレたち

“THE TOKYO TOILET”

 東京・渋谷区内に有名建築家やデザイナーが手がけた公共トイレが次々に誕生し、話題を呼んでいる。坂茂さんのデザインによる透明なトイレをご記憶の方も多いだろう。これは日本財団が渋谷区の協力を得て、暗い・汚い・臭い・怖いといったイメージがつきまとう公共トイレを、誰もが快適に使えるものに変えるべく進行中のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の一環。2021年夏までに区内17カ所のトイレが一新される予定だ。参加クリエイターは安藤忠雄、伊東豊雄、後智仁、片山正通、隈研吾、小林純子、坂倉竹之助、佐藤可士和、佐藤カズー、田村奈穂、NIGO®、マーク・ニューソン、坂茂、藤本壮介、マイルス・ペニントン、槇文彦の16名という、きら星のごとき面々。建築家だけでなくプロダクトやグラフィックなど、ジャンルを超えたデザイナーが交じっているのも興味深い。設計施工には大和ハウス工業、トイレの現状調査や設置機器・レイアウトの提案にはTOTOが協力している。
 日本財団はボートレースの売り上げをおもな財源とする民間の助成財団だが、同プロジェクトマネジャーの花岡隼人さんによれば、近年は海洋船舶関連事業だけでなく、子どもや高齢者・障害者の支援など、幅広い分野で活動しており、今回のプロジェクトのように、あらゆる人や組織をつなぐ「ソーシャルイノベーションのハブ」となることを目指しているという。
 障害者支援事業との関連から、長年ユニバーサルトイレについて研究を重ねてきた経緯もあり、トイレは財団にとって重要なテーマのひとつだった。渋谷区とは2017年に包括連携協定を結んでいたことから、区内の公共トイレの改修計画が持ち上がり、公園や幹線道路沿いなど、もともと公共トイレがあった17カ所を選定。実質は改修ではなく建て替えであり、2020年に予定されていた世界的なスポーツ大会を見据えた計画であることは言うまでもない。
 財団から各クリエイターに伝えた要望は、東京都の条例や渋谷区の規制などのルールに従うこと、TOTOのアドバイスをしっかり聞き入れること、そして性別や年齢や障害を問わず使える「だれでもトイレ」を最低ひとつ設けることの3点。全トイレ共通のオリジナルのピクトサインは佐藤可士和さんがデザインした。

公共トイレが街を変えていく

 今回、すでに完成済みのトイレのうち、4つのトイレを取材した。
 まず初めに、槇文彦さんデザインの「恵比寿東公園」のトイレを訪ねた。タコの滑り台が目を引く緑豊かな児童遊園の一角にたたずむのは、真っ白な美しい建築。中庭を中心に分棟配置された男性用、女性用、多機能トイレの各ブースをカーブした軽やかな屋根がつなぐ。屋根と壁のあいだにはすりガラスのハイサイドライトが設けられ、内部にはやわらかな外光が差し込んでいる。休憩もできる公園内のパビリオンや、子どものための遊具のようなトイレを目指したという。「『タコ公園』と呼ばれる恵比寿東公園に、新しく生まれた『イカのトイレ』として親しまれることを望んでいます」という、槇さんのコメントが微笑ましい。
「トイレだけど少し遊べる遊具のような意識でデザインされていて、すごくユーモアのある発想に感心しました。普段もっとスケールの大きなものをつくっている方々がこんな小さな建築をどう表現するのかと思っていましたが、みなさん、遊び心が豊かなんですよ」と花岡さん。

Area1 恵比寿東公園トイレ

デザイン/槇 文彦

恵比寿東公園トイレ 多機能トイレ 視線をコントロールしながら、多機能、女子、男子のトイレを分散配置。 写真/大木大輔
恵比寿東公園トイレ 女子トイレ ハイサイドライトから自然光が差し込む明るい空間になっている。 写真/大木大輔
恵比寿東公園トイレ 男子トイレ 屋根とガラスのあいだの開口により、自然通風と自然換気を促している。 写真/大木大輔
恵比寿東公園トイレ 夕景 夜は室内の光が外にもれ、建物周囲の安全にも配慮している。 写真/大木大輔
  • 建築概要

    東京都渋谷区恵比寿1-2-16
    日本財団
    槇 文彦
    大和ハウス工業
    48.80㎡
    42.85㎡
    鉄骨造、鉄筋コンクリート造・地上1階
    2020年8月
  • おもなTOTO使用機器

    壁掛大便器セット・フラッシュタンク式/UAXC3CS1
    ウォシュレット アプリコットP(温風乾燥付きエコリモコン)/TCF5840AUPR
    マイクロ波センサー壁掛小便器セット/XPU21A
    コンパクト多機能トイレパック/UADAK21R1A1ASN2WA

 次に、安藤忠雄さんが手がけた「神宮通公園」のトイレは、円筒の上に大きく張り出した屋根がかかるユニークな形。外壁は光や風が通るスリット状にし、迫り出した庇の下は人々が雨宿りする場にもなるように考えたという。
 花岡さんいわく、「以前のトイレはホームレスが住み着いたり落書きがあったりとひどい状態だったんです。安藤さんも槇さんも公共トイレの安全対策を非常に重視されていて、こちらがお願いするまでもなく、最初から2方向に抜けられるプランをご提案くださいました」。
 また、ここで苦労したのは建物の配置決め。公園の地下には下水管などの設備があちこち埋まっているうえ、園内の桜の木の枝をできるだけ切らないでほしいという地域住民の強い要望があったため、それらを避けながら、トイレの位置を慎重に定めたそうだ。

Area2 神宮通公園トイレ

デザイン/安藤忠雄

神宮通公園トイレ 外観 円筒の外観。ルーバー状の外壁がまわりを囲んでいる。 写真/大木大輔
神宮通公園トイレ 男子トイレ 円弧状の動線沿いに便器や洗面台などが配置されている。 写真/大木大輔
神宮通公園トイレ 女子トイレ トップライトからの光が室内を明るくしている。 写真/大木大輔
神宮通公園トイレ だれでもトイレ 入り口の正面にあり、男子、女子ともに入りやすい配置。 写真/大木大輔
  • 建築概要

    東京都渋谷区神宮前6-22-8
    日本財団
    安藤忠雄
    大和ハウス工業
    62.80㎡
    54.47㎡
    鉄筋コンクリート造、鉄骨造・地上1階
    2020年9月
  • おもなTOTO使用機器

    壁掛大便器セット・フラッシュタンク式/UAXC3CS1
    ウォシュレット アプリコットP(温風乾燥付きエコリモコン)/TCF5840AUPR
    マイクロ波センサー壁掛小便器セット/XPU21A
    コンパクト多機能トイレパック/UADAK21R1A1ASN2WA

 一方、「東三丁目公衆トイレ」をデザインしたのは、ニューヨークを拠点に活動中のプロダクトデザイナー・田村奈穂さん。目の前に車道、背後の擁壁の上を山手線が走る細長い三角形の敷地に、鮮やかな赤のシャープなトイレがお目見えした。国際都市渋谷を訪れるビジターへのもてなしの気持ちを込め、日本の贈り物文化の象徴である「折形」をモチーフにしたデザインだ。また、トイレには珍しい赤について、田村さんは「赤はここにトイレがあることが明確に伝わる色、また、緊急時に使われるアラート色で、心理的に緊張感をもたせる色です。少しでも出来心で犯罪が起こることがないように、そんな想いから選びました」と語る。
 花岡さんによると、狭小変形地に各ブースや機器類をうまく納めるのが大変で、最後は現場でペーパーホルダーの位置を微調整するなどして対応したとのこと。さらに、コロナ禍で田村さんが来日できなくなったため、トイレ内にノートパソコンを持ち込み、竣工確認をリモートで行ったという。

Area3 東三丁目公衆トイレ

デザイン/田村奈穂

東三丁目公衆トイレ 夕景 折形をモチーフとしているため、壁や屋根などが薄くつくられている。 写真/大木大輔
東三丁目公衆トイレ 男子トイレ 小さな三角形の平面の中に収められた小便器。 写真/大木大輔
東三丁目公衆トイレ 洗面台 洗面台や個室も、三角形の平面の中に収められている。 写真/大木大輔
東三丁目公衆トイレ 多機能トイレ 狭小の公衆トイレにおいても、広さが確保されている。 写真/大木大輔
東三丁目公衆トイレ 女子トイレ 「THE TOKYO TOI-LET」で統一して用いられたピクトサイン。 写真/大木大輔
  • 建築概要

    東京都渋谷区東3-27-1
    日本財団
    田村奈穂
    大和ハウス工業
    19.25㎡
    18.84㎡
    鉄筋コンクリート造・地上1階
    2020年8月
  • おもなTOTO使用機器

    壁掛大便器セット・フラッシュタンク式/UAXC3CS1
    パブリックコンパクト便器・フラッシュタンク式/CFS497BC
    マイクロ波センサー壁掛小便器セット/XPU21A
    コンパクト多機能トイレパック/UADAK21R1A1ASN2WA

 最後に、坂倉竹之助さんがデザインした「西原一丁目公園トイレ」を取材した。ここは甲州街道のすぐ裏手の緑道沿いに延びた公園の一角にあり、周辺は住宅街。以前は汚いだけでなく真っ暗で、近寄りがたい雰囲気だったそうだ。現地を見た坂倉さんは「明るく開放的で、誰もが快適に、平等に使える、『利用したいと思う』トイレを創出すること、またトイレ単体ではなく、この公園全体のイメージを改善することを目指しました」と語る。
 導き出したイメージは「行燈」。実際に訪れると、まさに行燈のような半透明のシンプルな箱の内部は、昼はやわらかな光で満たされ、明るく開放的な印象。夜は全体が発光し、きっと街の治安にも貢献するにちがいない。よく見ると、トイレ単体だけでなく周辺の植栽など、外部空間も一体でデザインされており、設計者の想いが伝わってくるようだ。ここは3つのブースがすべて「だれでもトイレ」仕様で、並んだ3つのトイレの扉に描かれた男女のピクトサインを見ると、LGBTQ+といった性別への配慮もここまできたかと実感させられる。

Area4 西原一丁目公園トイレ

デザイン/坂倉竹之助

西原一丁目公園トイレ 夕景 周囲の治安向上のために、行燈のように光る外観。 写真/大木大輔
西原一丁目公園トイレ トイレ2 半透明の壁面から光を取り込んでいる。周囲の緑の影が落ちている。 写真/大木大輔
西原一丁目公園トイレ だれでもトイレ 大きな半透明の壁面には、樹木の絵が描かれている。 写真/大木大輔
  • 建築概要

    東京都渋谷区西原1-29-1
    日本財団
    坂倉竹之助
    大和ハウス工業
    21.45㎡
    21.45㎡
    鉄筋コンクリート造・地上1階
    2020年8月
  • おもなTOTO使用機器

    壁掛大便器セット・フラッシュタンク式/UAXC3CS1
    ウォシュレット アプリコットP(温風乾燥付きエコリモコン)/TCF5840AUPR
    マイクロ波センサー壁掛小便器セット/XPU21A
    コンパクトオストメイトパック/UAS81RSB2NW#NW1

1日3回も清掃を行う

 ところで、今回のプロジェクトで見逃せないのは、単にデザイン性の高いトイレをつくるだけでなく、維持管理に対する取り組みも周到である点だ。日本財団は渋谷区、一般財団法人渋谷区観光協会と手を組み、3年間費用を負担し、一般的な公共トイレより多い1日3回の清掃を行い、トイレ診断士によるチェックを受け、定期的に協議会も開いてメンテナンスを向上させていくという。ファッションデザイナーのNIGORさんが監修したオリジナルデザインの清掃員用ユニフォームも用意した。「テーマパークの清掃スタッフのように、みなさんを喜ばせるキャストという意識で従事していただければという想いでつくりました」と花岡さん。
 ちょうど槇さんデザインのトイレを取材した際、清掃中だったが、通常の公共トイレでは見かけない若い女性スタッフがユニフォームに身を包み、はつらつと働いている様子は新鮮だった。細かいチェック項目を設定し、一つひとつ達成していくことで、モチベーションやスキルも上がっていくという。
 名だたる建築家やデザイナーがこぞって、トイレを小さな公共建築ととらえて全力投球した今回の贅沢なプロジェクト。これまで地域住民にとっては迷惑施設でしかなかった公共トイレが、街の自慢のシンボルとなってくれればうれしいと花岡さんは語る。渋谷区だけにとどまらず、全国の公共トイレを向上させるきっかけになることを願いたい。

  • 花岡隼人氏の写真

    花岡隼人Hanaoka Hayato

    日本財団
    経営企画広報部
    ソーシャルイノベーション推進チーム
    チームリーダー

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