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暖炉が中心に置かれた居間。暖炉を挟んで会話する住人夫妻の日常が垣間見える。 写真/藤塚光政

2021年 新春号 藤塚光政の写真術を読む‑ 住宅写真10選 ‑09.「トレッドソン邸」

暗いところは暗く、そうすれば暖炉の光が
繊細に闇を照らす

「住宅遺産 名作住宅の継承」(雑誌『家庭画報』の連載)で撮影したなかで最も気に入っているのが、「トレッドソン邸」のこの一枚。以前から撮影したかった住宅だったと言う。暖炉のあかりを中心に据え、その両側には、光に照らされるふたりの人物。住宅を継承した住み手と、受け継がれた建築を収めた、幻想的でさえある美しい写真だ。
「本当は、もう少し日が暮れてから撮りたいな、という気持ちもあったし、人を入れないカットも撮りたいなぁとも思ったんだよ、すごく正直に言えば。でも長く居座ってもしかたないし、企画のコンセプトは尊重しなきゃダメだしな」と、少しだけ本音も聞かせてくれた。自らも編集を手がけるからこそ、場合によっては写真家として以外の判断を大切にするのだろう。
 ほかの写真もそうなのだが、藤塚の写真の明暗は本当に絶妙だ。こうした点でも、藤塚の写真はほかの建築写真と一線を画す。室外のはっきりとした光から、暖炉と間接照明のやわらかな明るさ、そしてやや薄暗い室内への繊細なグラデーションが、見事にとらえられている。
「海外のインテリア写真は、ガンガン光を当てたりストロボをたいたりして、室内を外と同じような明るさにしてしまうし、人物の表情もはっきり見えるように写すよね。暗くて写らないところがあると、失敗みたいに思っちゃうんだよな。こういう好みは、国民性なのかもしれない。でも、僕は暗いところは暗くていい、無理矢理明るくしなくてもいいと思っているかな」

南東側から見た外観。石貼りの暖炉の煙突が、妻面の意匠にもなっている。 写真/藤塚光政
  • 藤塚光政氏の画像

    藤塚光政Fujitsuka Mitsumasa

    ふじつか・みつまさ/ 1939年東京・芝に生まれる。61 年東京写真短期大学(現・東京工芸大学)卒業。月刊『インテリア』を出版していた日本室内設計研究所に入社。63年菊竹清訓「出雲大社・庁の舎」の撮影で、写真家デビュー。65年フリーランスとなる。73年有限会社ZOOMを白鳥美雄と設立。87年Helico有限会社設立。同年日本インテリアデザイナー協会賞を受賞。2007年川辺明伸を共同主宰者とする。18年2017年度毎日デザイン賞特別賞を受賞。