特集

食堂から、部屋を区切る折れ戸越しに居間。そこに住人夫妻が座っている。 写真/藤塚光政

2021年 新春号 藤塚光政の写真術を読む‑ 住宅写真10選 ‑07.「ダブルハウス」

クリスチャンが設計した家を
クリスチャンが住み継いだ姿を写す

 日本で住宅を継承することは、非常に難題だ。それでも継承が実現するのは、さまざまな人がその住宅に対して注いだ愛情や努力があってこそのこと。住み手は住宅だけではなく、それを設計した建築家やかつての持ち主、保存や新たな持ち主探しに従事・奔走した人々の想いも受け継ぐこととなる。
 こうした見えないストーリーをも、藤塚は写真に写し出しているように思われる。しかし「事前に執筆者の原稿を読んだり、撮影のポイントを打ち合わせて決めておくようなことは絶対にしない」と言う。文脈を自ら感じ取り、間取りの核を見出す力が抜きん出ているのだ。  キリスト教の伝道のために来日したヴォーリズが設計した「ダブルハウス」。現在は、奇しくもヴォーリズと同じクリスチャンの夫妻に、“神からの預かりものとしての住まい”として受け継がれている。
 連載「住宅遺産 名作住宅の継承」(雑誌『家庭画報』)における写真の唯一の決めごとは、「継承者と空間の写真」。その撮影のために、藤塚が夫妻を座らせたのは、来賓を迎えるためのスペースとして設えられた部屋だった。住み手は、やわらかな陰影のなかで、とてもやさしく穏やかな表情を浮かべている。そんなふたりを、藤塚は隣の部屋からあえて扉越しに写し取った。まるで住宅が開かれ、新しい住み手であるふたりを「祝福」しているように見えないだろうか。

南側の庭から見た外観。洋風の生活が浸透しはじめた大正時代らしい洋館。 写真/藤塚光政
  • 藤塚光政氏の画像

    藤塚光政Fujitsuka Mitsumasa

    ふじつか・みつまさ/ 1939年東京・芝に生まれる。61 年東京写真短期大学(現・東京工芸大学)卒業。月刊『インテリア』を出版していた日本室内設計研究所に入社。63年菊竹清訓「出雲大社・庁の舎」の撮影で、写真家デビュー。65年フリーランスとなる。73年有限会社ZOOMを白鳥美雄と設立。87年Helico有限会社設立。同年日本インテリアデザイナー協会賞を受賞。2007年川辺明伸を共同主宰者とする。18年2017年度毎日デザイン賞特別賞を受賞。