特集

1階の中庭。屋根はないが、そこには家具が置かれている。 写真/藤塚光政

2021年 新春号 藤塚光政の写真術を読む‑ 住宅写真10選 ‑04.「住吉の長屋」

暮らしのありのままを伝えるため
中庭に置かれた家具もそのままに

 こちらの「住吉の長屋」の写真は、「意地の都市住宅」(雑誌『BOX』の連載)のために撮影されたものだ。周知のとおり、この住宅の大きな特徴は、三分割したヴォリュームの中央に設けられた、屋根のない中庭の存在である。発表当時は、多くの建築批評において、住宅内部にいながら、外部空間を通って部屋から部屋へ「移動すること」の是非ばかりが取り沙汰されたようだ。しかし、空間自体はいったいどのようなものなのだろう。そこに立つと、どんな心地になるのだろう。
 暮らしのありのままを写した藤塚の写真からは、ただただこの空間の気持ちよさが伝わってくる。不便さや不快感はまったく感じられない。むしろ、植栽やテーブル、椅子が置かれ、住み手がこの空間を積極的に楽しんでいる様子が写し出されている。何もない「ドンガラ写真」からは、こうした暮らしぶりを想像することはなかなか難しいだろう。玄関以外の開口がなく、一見非常に閉鎖的に思われる住宅の内部には、じつはこんな開放的な暮らしが広がっていた。
 しかし藤塚いわく、「でも、今見るとこの写真はダメだな。この中庭の上に空が広がっている、あの開放感や気持ちよさがまだまだ出ていないんだよ。もし、今また『住吉の長屋』を撮影できるとしたら、入った瞬間にすぐ上を撮るかな」。

中庭俯瞰。部屋から部屋へ移動する動線は中庭。 写真/藤塚光政
細いスリットのような正面入口。 写真/藤塚光政
  • 藤塚光政氏の画像

    藤塚光政Fujitsuka Mitsumasa

    ふじつか・みつまさ/ 1939年東京・芝に生まれる。61 年東京写真短期大学(現・東京工芸大学)卒業。月刊『インテリア』を出版していた日本室内設計研究所に入社。63年菊竹清訓「出雲大社・庁の舎」の撮影で、写真家デビュー。65年フリーランスとなる。73年有限会社ZOOMを白鳥美雄と設立。87年Helico有限会社設立。同年日本インテリアデザイナー協会賞を受賞。2007年川辺明伸を共同主宰者とする。18年2017年度毎日デザイン賞特別賞を受賞。