特集

上に3階の踊り場。下に2階の居間とそこにいる人々。 写真/藤塚光政

2021年 新春号 藤塚光政の写真術を読む‑ 住宅写真10選 ‑03.「塔の家」

地層のような階段の隙間から見える住み手と
その友人たち

「意地の都市住宅」(雑誌『BOX』の連載)のコンセプトは、「意地を張ってでも都市に住む意志をもった住宅を紹介する」こと。「塔の家」は、この連載の第1回で紹介された住宅だ。坂倉準三建築研究所から独立し、都内に自邸を建てることにした東孝光には、郊外に居を構えるという選択肢はいっさいなかったようだ。都心で得られたわずか6坪ほどの敷地に、書庫、リビング、寝室に子ども室、水まわりに加えて駐車スペースをも詰め込んだ、地下1階・地上5階の狭小高層住宅を自ら設計し、家族3人で居住した。まさに元祖・「意地」の都市住宅だ。「とにかくめちゃくちゃ狭いから、とても三脚なんて構えられなくて。まさにこれこそ、小型カメラじゃないと撮れない住宅だったんだよ」と、藤塚はうれしそうに話す。
 確かに「塔の家」は、平面だけでとらえれば狭いのかもしれない。しかし、住宅の内部には扉や仕切りがいっさいないので、視線をさえぎるものがない。外からの光も、空間の奥のほうにまで差し込んでいる。また、6層のフロアを階段がつないでいて、縦方向にすっと抜けるような気持ちよさがあるのだろう。階段と吹抜けを通して、上下に空気が流れていくようだ。写真には、ごつごつとした打放しコンクリートの素材感や、空間のスケールもしっかりおさえられている。しかしそれ以上に、藤塚が、まるで地層のような階段の合間を通して切り取ったのは、都市のなかで空間の心地よさを楽しむ住み手やその友人たちの姿だった。

玄関まわり。荒々しいコンクリートの壁面に植物の影が落ちる。 写真/藤塚光政
外観。狭小地となっても都市に住むため、塔のような姿になった。 写真/藤塚光政
  • 藤塚光政氏の画像

    藤塚光政Fujitsuka Mitsumasa

    ふじつか・みつまさ/ 1939年東京・芝に生まれる。61 年東京写真短期大学(現・東京工芸大学)卒業。月刊『インテリア』を出版していた日本室内設計研究所に入社。63年菊竹清訓「出雲大社・庁の舎」の撮影で、写真家デビュー。65年フリーランスとなる。73年有限会社ZOOMを白鳥美雄と設立。87年Helico有限会社設立。同年日本インテリアデザイナー協会賞を受賞。2007年川辺明伸を共同主宰者とする。18年2017年度毎日デザイン賞特別賞を受賞。