最新水まわり物語

壁面に大きな郵便記号が描かれた会議室ロビー。写真/傍島利浩
大手町プレイス ウエストタワー(日本郵政グループ:3階と6~24階)。写真/傍島利浩

2020年 新春号日本郵政グループの各社を
1カ所に集約した新オフィス

日本郵政 大手町本社

切手のドット絵で彩られた応接会議室の天井。写真/傍島利浩
ガラス面に郵便番号の数字で描かれた日本地図。写真/傍島利浩
ギャラリー入口の「富士山(挾土秀平作)」。写真/傍島利浩

 日本郵政グループはこのほど本社機能を霞が関から大手町に移転し、日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のグループ4社の従業員約6000人が引っ越しを完了した。新オフィスは2018年8月に竣工した「大手町プレイス」ウエストタワーの3階と6〜24階を占め、延床面積は6万㎡。見どころ満載の新本社と水まわりを取材した。
 移転プロジェクトの陣頭指揮をとった齋藤隆司さん(現・日本郵政不動産)によれば、民営化後、郵政グループの本社機能は拡大の一途をたどり、霞が関の本社ビルだけでは収まりきらず、周辺のビルを含めた8カ所に分散していたという。
「これではさまざまな業務の効率やグループ間の意思疎通が阻害され、交流による相乗効果も生まれないので、どこか1カ所に集約しようということで移転計画が始まりました」
 6000人が収容できるビルはなかなかなく、最終的にかつて逓信ビルがあった敷地に建つ再開発ビルへの移転が決まり、ゆかりのある古巣・大手町に戻ることになった。

17F オフィスフロア 女子トイレ 個室の正面に洗面器を置いた省スペースの配置。手前に歯磨きにも用いることができる洗面器、壁面には小物入れ。写真/傍島利浩
17F オフィスフロア 多機能トイレ さまざまな状況の人が使いやすいよう、男女ともに入口に配置されている。写真/傍島利浩
17F オフィスフロア 個室 トイレ全体と同様に、個室内も清潔感のある白い内装。写真/傍島利浩
17F オフィスフロア 男子トイレ 手前と奥の2方向から出入りすることができる間取りになっている。写真/傍島利浩

日本郵政ならではの意匠が各所を彩る

 移転を機に、グループ間の垣根をなくすことでシナジーを生み出し、社員の創造性を刺激し、ホスピタリティが向上するようなオフィスをつくりたい。人、情報、地域を結ぶ場にしたい――それが日本郵政としての要望だったと齋藤さんは語る。そこで、当然ながら、共用スペースの充実が求められることになった。
「齋藤さんが強いリーダーシップを発揮されたこともあって、なかでも気合いが入っているのが、3階の応接会議室です」と語るのは、新本社全体の設計を手がけた日本設計の崎山茂さん。実際に見るとその完成度に驚かされる。ガラスで仕切られた複数の会議室の天井に、おなじみの前島密の1円切手をはじめ、「見返り美人」「月に雁」などの切手をモチーフにしたグラフィックが描かれているのだ。やわらかな色合いのこれらの天井画は、交差点の向かい側から見上げるとガラス越しにうっすら透けて見え、郵政グループのイメージを街に発信するサインの役目も果たしている。
 一方、14階に13室ある会議室には「北陸」「沖縄」など、13の支社名がつけられ、それぞれに各地域の郵便番号で構成した地図グラフィックが描かれている。ガラス壁面には全部で12万個あるという郵便番号が地域ごとにびっしり並び、全国から訪れるお客さまとの会話のきっかけになることもあるそうだ。さらに、社員食堂も凝っており、社員用のキッチン、座敷席、ボックス席など多様なコーナーを確保。連続する柱には社史のエポックとなる年表が描かれ、旧逓信ビルの意匠で多用されていた正三角形を組み合わせた数字で、その年号を表現している。
 これらの応接会議室、会議室、食堂はそれぞれ、第53回日本サインデザイン賞の大賞、銀賞、入選を総なめにしており、同グループの新本社にかけた情熱が伝わってくるようだ。サインデザインはすべて、テラダデザインの平手健一さんが手がけた。

15F 健康増進施設 シャワールーム 男子用。洗面カウンター、鍵付きロッカー、トイレも完備している。写真/傍島利浩
15F 健康増進施設 シャワールーム 多様性に配慮し、性別を問わずに利用できる個室タイプを併設している。写真/傍島利浩
15F 健康増進施設 入口 男子シャワールームの入口。バリアフリーのためにスロープを設置。写真/傍島利浩
15F 健康増進施設 健康増進施設 社内の部活動などで活用している施設。奥に男女別のシャワールーム。写真/傍島利浩

LGBTにも配慮したこまやかな水まわり

 さて、グラフィックがインテリアを形づくっているような、これらの遊び心あふれる共用スペースと比べると、基準階のトイレは白さが際立つシンプルな内装。窓のない細長い空間だが明るい印象で、両サイドに出入口があるので閉塞感もない。崎山さんによれば、限られたスペースに必要な個数の衛生陶器を配置する制約上、用を足すエリアと洗面エリアを明確に分けることができなかったため、各コーナーの配置には気を配ったという。男子トイレは中央に大便器ブースと小便器を向かい合わせに配し、その外側に洗面器、さらに一番外側に歯磨きにも用いることができるように配慮した洗面器を別途配置。女子トイレは中央に向かい合わせにブースと洗面器を配し、両端に歯磨きにも用いることができる洗面器を配置している。どちらも入口に近いほど、清潔感がより求められるエリアになっているというわけだ。
 また、女子トイレは洗面所の鏡に隣の人やブースから出てきた人が映り込まないよう、鏡の幅や配置についても細かく検討したという。「そんなところまで気を遣ってくれていたとは知らなかった」と齋藤さんは驚く。「オフィスで仕事をしていると自分も感じることですが、昔に比べて煙草を吸う人が減ったこともあって、トイレは貴重な息抜きの場になっています。だから、限られた広さでもできるだけゆったりできる空間にしたいと、トイレづくりのためにヒアリングを重ねるなど、結構細かいところまで考えているんですよ」と崎山さんは語る。
 なお、基準階のトイレには、男女トイレそれぞれの一方の入口を入ってすぐの位置に多機能トイレがあるが、これは車いす使用者やオストメイトだけでなく、LGBT(性的少数者)にも配慮したもの。廊下から少し奥まった位置に配することで心理的に入りやすくしている。
 次に、大会議室やギャラリーのある22階のトイレは、ゲスト用にふさわしい上質な落ち着きのあるインテリアだ。洗面コーナーの鏡の背後の壁には艶のある白いタイルが貼られ、間接照明による陰影が美しい。「今回このビルの内装では日本の伝統工芸の雰囲気を出すために、タイルを多用しました。ここでも釉薬がかかったタイルを使うことで、少し和を感じさせる深みを出しています」と崎山さん。

22F ギャラリー階 男子トイレ 屛風のような壁面と間接照明が、高級感のある空間を演出している。写真/傍島利浩
22F ギャラリー階 個室 外部の方の使用が多いフロアのため、高級感のある木調の内装。写真/傍島利浩

 最後に、15階にあるシャワールームを見学した。健康経営に力を入れる同グループでは、このフロアに柔道や剣道、ヨガなど、多様な活動に使える広い健康増進施設を設け、隣にシャワー室も確保しているのだ。男女別に、複数のシャワーブースが配され、洗面カウンター、トイレ、鍵付きロッカーも完備。ここにもLGBT配慮のシャワーブースが別に設けられている。
 齋藤さんいわく、「郵政グループには霞が関に本社がある頃から皇居のまわりをランニングする人が大勢いました。以前はジムなどの福利厚生施設もあったのですが、スペース不足からどんどんオフィスに用途転換されてしまったので、大手町に移転するならぜひ復活してほしいという声は多かったんです。今は自転車で通勤する人も結構多いですし、金融機関のメンテナンスや災害対応のために宿泊する社員もいますから、リフレッシュできるシャワールームは非常に喜ばれています」。
 ちなみに、同オフィスは環境性能評価指標であるLEEDのCI(Commercial Interiors)部門においてゴールド認証を取得。省エネ性能だけでなく、節水性能、建設中の廃棄物管理、室内温熱環境の質などの性能に関しても世界的レベルであることが認められた。「トイレの節水型機器も大いに役立っていると思います」と齋藤さん。
 どこを見てもうらやましいばかりに快適で、企業のオリジナリティも感じられ、さぞ社員の満足度も高いにちがいない最先端オフィス。大規模な移転によるオフィスの統合は、今後、社員の意識や働き方にどんな変化をもたらすのだろうか。

  • 崎山 茂氏の写真

    崎山 茂Sakiyama Shigeru

    日本設計
    PM・CM部
    理事

  • 齋藤隆司氏の写真

    齋藤隆司Saito Takashi

    日本郵政不動産
    事業創造部長
    (前 日本郵政 本社移転推進室長)