浦 一也の
旅のバスルーム

チーズを切ったようなゲストルーム平面。
白くなったシュテファン大聖堂が見える。
ナイトテーブルとして使われている銀のトレー。

2019年 春号ド&コ ホテル ウィーン
 ─ オーストリア・ウィーン 「溶ける」寸前のバスルーム

 いささか旧聞に属するが、かのハンス・ホライン(*1)がウィーンの中心にある世界遺産シュテファン大聖堂前につくった商業施設「ハース・ハウス」(1990)の一部が、2006年以降このようなホテルになっている。外は相変わらずものすごい人出だが、ホテルとしてこんなにわかりやすい立地はない。
 ホラインのような「かつて前衛」の建築がいまだに陳腐化しないのは、素材がリッチなものを使っているからではないかと思われる。時代は違うがウィーン市内のアドルフ・ロース(*2)設計の「ロースハウス」(1911)などを見てもそれを感じる。いつの世もコンテンポラリーなものは素材が本物でリッチなものでなければならないという所以。ポストモダンでもミニマリスムでも安普請は短命なのだ。
 基準階は円の一部を含んだ変形平面だからゲストルームにすると扇を半分たたんだような形となり、32㎡という部屋の奥行きは10m近くにおよぶ。部屋の入口近くには巨大な鏡があって狭さを和らげるなど、そこかしこに工夫の跡が見える。
 室内にレベル差があり、高いレベルには水まわりがあって床はライムストーン。低いほうにはベッドやパーラーがあってフローリング。改装だが床上配管ということもあるだろう。  この部屋の窓からも洗われて白くなったシュテファン大聖堂が見える。チェック・イン前に部屋からのビューを確認したい。窓にカーテンみたいなものを使いたくないとばかり、室内側に雨戸のようなパネルが付いていて左右連動して開閉する。バランサーが付いているのか軽い。
 壁面や窓の膳板に黄色いスエードを多用しているのが珍しい。
 ベッドサイドテーブルなどのテーブルトップは銀の「トレー」でできている。これは全館そうなのだ。おもしろいがサービス中にも見える。
 シャワールームもトイレも透明ガラス張りで、外側にルーバーの折り畳み扉や引き戸がかろうじて付いているのだが、中がよく見えてしまう。私が主張する「バスルームはだんだん溶けていく」という途上の姿か。
 ガラスは「透光不透視」ということもできるはずだが、ここは社会通念の変化のほうが早かったか透視可。バスルームからの眺望重視ということや部屋全体を広く見せ、またシャワーに替わることが多くなったということもあるだろう。
 このホテルを経営するグループは市内でケータリング業務やいくつかのレストランを運営しているだけあって、上階にあるバーやレストランの味はなかなかのもの。いい席を予約したい。
 扇型平面だったので実測にはちょっと時間がかかったがそれも終わった。
 ウィーンは見るべきものがあって忙しい。さてオットー・ワグナーのアム・シュタインホーフ教会(*3)とか、アルベルティーナ美術館(*4)でも見に行くとするか。

*1 ハンス・ホライン(1934〜2014):オーストリアの建築家。レイノルズ記念賞、プリツカー賞など受賞多数。主要作品に「ハース・ハウス」(1990)、「レッティ蠟燭店」(65)、「メンヘンプラトバッハ市立美術館」(65)など。 *2 アドルフ・ロース(1870〜1933):オーストリアの建築家。「装飾は罪悪である」という主張が波紋を呼んだ。作品に「ロースハウス」(1911)など。 *3 アム・シュタインホーフ教会:オットー・ワグナー(1841〜1918)の設計。1907年竣工。ウィーンの中心部から6㎞ほど離れた山上にある。精神科病院の礼拝堂としてつくられた。正面には彫像が並び、内部は白色と金色を多用した華麗なもの。 *4 アルベルティーナ美術館:世界有数のグラフィック・コレクションで知られ、デューラーの「野莵」やモネ、クリムトの絵画などのコレクションがある。

DO&CO HOTEL VIENNA
Add  Stephansplatz 12, Haas Haus 1010 Wien, Austria
Phone +43 1 24188
URL  https://www.docohotel.com

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    浦 一也Ura Kazuya

    うら・かずや/建築家・インテリアデザイナー。1947年北海道生まれ。70年東京藝術大学美術学部工芸科卒業。72年同大学大学院修士課程修了。同年日建設計入社。99〜2012年日建スペースデザイン代表取締役。現在、浦一也デザイン研究室主宰。著書に『旅はゲストルーム』(東京書籍・光文社)、『測って描く旅』(彰国社)、『旅はゲストルームⅡ』(光文社)がある。