新商品開発物語

佐藤俊博(左)と髙塩康洋(右)

2018年 春号「どこでも多機能トイレ」時代へ。

「コンパクト多機能トイレパック」 2018年2月1日発売

車いす使用者やお子さま連れの方の行動範囲を広げたい……。小さな施設の限られたスペースにも多機能トイレを増やすため、TOTOが取り組んだのは機器のコンパクト化。独自のコンセプトと細かい配慮をつくした新製品について、ふたりの開発者がご紹介いたします。

TOTO㈱ トイレ空間生産本部 トイレ空間商品開発部 トイレ空間パブリック 商品開発グループ
髙塩 康洋
TOTO㈱ 衛陶開発第一部 衛陶開発 第二グループ
佐藤 俊博

コンパクトな多機能トイレが求められている

多機能トイレはなぜ生まれたのですか。

佐藤俊博(以下、佐藤)多機能トイレというのは、そもそも車いす使用者に使っていただくために開発されました。海外にもあるのですが、日本ではその広いスペースを有効活用しようということで、オストメイト対応の器具や赤ちゃんのおむつ替えの場所などが設置されるようになったのです。

駅やデパートなどで本当によく見かけるようになりました。でも車いす使用者やオストメイトの方からは「もっと自分たちが使えるトイレを整備してほしい」という要望が出ているそうですね。

髙塩康洋(以下、髙塩)アンケート(*1)によると、コンビニやスーパーなど中小規模の施設にも多機能トイレを設置してほしいという声が多くなっています。

まだまだ数が足りないですものね。

髙塩バリアフリー法の建築設計標準(*2)では、車いす使用者が使うトイレは、2000㎜角というサイズを基準として設定していますが、小規模施設などでは、その広さはなかなか確保できません。そこで2012年に「コンパクト多機能トイレパック」が誕生しました。さらに、昨年の建築設計標準改正で小規模施設や既存建築物などへバリアフリートイレの設置が推奨されるようになったため、コンパクトな多機能トイレのニーズはますます高まると思います。

さまざまな機能の組み合わせが可能に

小さい建物にもどんどんつけてくださいということですね。では今回のリニューアルのポイントは?

佐藤一つひとつの器具をぐっと小さくしたことで、従来の「コンパクト多機能トイレパック」より、さらにコンパクトになりました。車いす・オストメイト対応で1900㎜×1700㎜。器具の下に空間をたっぷり設けているので、車いす使用者の動線を邪魔しません。

髙塩それともうひとつ。器具のサイズもほぼ統一したので、いろんな機能の組み合わせが可能になりました。

というと。

髙塩たとえば、最近の傾向として、多機能トイレをお子さんを連れたお母さんが利用されることが多くなっています。一般トイレだとベビーカーが入らないんですね。そこで、乳幼児連れに便利な機能を揃えたプランも開発しました。

お母さんにはうれしいですね。

佐藤イクメンのパパにも便利です(笑)。

髙塩百貨店などの商業施設では紳士服、子ども服……とフロアによって客層が違いますので、今回の「コンパクト多機能トイレパック」なら、客層に合わせて設備を変えることができます。お子さんに配慮したプランなら子ども服売り場にぴったり。異なる機能を入れられるため、とても喜ばれると思います。

佐藤器具を小さくすることで、表現できる幅が広がったんです。さまざまな機能の組み合わせパターンをご提案できるようになりました。

コンパクト、だけど使いやすい器具

器具は、どのようにコンパクト化されたのですか。

佐藤たとえば僕が担当したオストメイト汚物流しだと、幅と高さ。機器の幅を従来の450㎜から340㎜に狭めて、限られたスペースにも対応できるようにしました。
 使い勝手を変えたくなかったので、床から陶器上端までの高さはそのままに、陶器部分の高さをおさえ、下の空間をたっぷりとっています。下が広いと、車いすを動かすにも、オストメイトの方が姿勢をとるにも使いやすいのです。

ずいぶん小さくなりましたね。

佐藤少ない水量でしっかり汚物を流しきる。その技術を確立するのに一番苦労しました。本来、洗浄水は横方向に吐水されますが、汚物を流すには縦方向の流れが必要。つまり、横から縦へ、水流を制御しなければなりません。
 新商品は幅を狭くした分、制御するための空間が少なくなります。しかも、以前は楕円だったボウルが真円に近くなったので、遠心力でさらに横方向の力がはたらくのです。
 そこで、吐水口まわりの形状やボウルの流れの実験を重ね、さらに、縁にオーバーハングを設けることで、水あふれの心配なくボリュームのある水の流れをつくり出しました。効率的な水の流れを生み出すことで、洗浄水量も8Lから4.8Lへ大幅に減らすことに成功しています。

TOTO独自のお子さま配慮型パッケージ

お子さま連れ向けのパッケージは、TOTO独自のものですか。

髙塩そうです。お母さんたちにヒアリングしたところ、お子さんの成長によっておむつの替え方やトイレの使い方が違ってくることがわかったのです。そこで、ベビーチェア、フィッティングボード、ベビーシートの3点をセットにして、成長に合わせて使い分けできるようにしました。

ベビーチェアとフィッティングボードを一体にしたのは。

髙塩3つの器具を入れようとするとスペースをとるため、優先度の低いフィッティングボードが採用されにくくなっています。しかしベビーチェアやシートとともに絶対に必要なので、ベビーチェアの下の空間を活用して一体型の器具を開発しました。

ベビーチェアは、従来と異なり大便器のすぐ横に置かれています。

髙塩一番重視したのは、お母さんとお子さんの距離を近づけること。目線が合う、手が届くことで安心できる、そんな位置関係にしようと考えました。

なるほど。

髙塩一方で、ベビーチェアの位置を変えると、いろいろな器具がお子さんの周囲にあるので、ついいたずらしたり、手や足をはさんでしまったりしますよね。そこでやわらかい素材の背もたれとガードを設けました。包み込むとともに部材の角度などを細部に至るまで計算して、安全に、そして安心できる場所にお子さんを座らせられるようにしたんです。左右のガードが斜めにカットしてあるのは、お子さんを座らせるときに肘がひっかからないようにという配慮です。

世界に発信する多機能トイレへ

どのようなところで採用されるんでしょう。

髙塩私の想いとしてはまず牛丼屋さんに入れてもらいたいな、と(笑)。

というと?

髙塩以前ヒアリングした車いす使用者が、「よく行く牛丼屋さんにもバリアフリートイレがあればいいのに」とおっしゃっていました。どこにでもある身近な小さな施設ほど入っていない。そういうところに入れていただくのが、私の夢といえるかもしれません。

安心してお出かけできますね。ところで、海外には多機能トイレはあまりないのでしょうか。

髙塩ないですね。アメリカやイギリスでも車いす使用者への配慮が中心です。

佐藤オストメイトの方は日本と比較にならないほど大勢います。今後はぜひ海外進出も視野に入れていきたいです。

髙塩大きい施設に多機能トイレがあることも大切なのですが、どこに行ってもある。それを日本の文化として発信できたらすばらしいなと思います。

*1「公共トイレの利用状況アンケート調査」(2011~2013年、TOTO調べ)
*2「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」国土交通省(2017年)

  • 髙塩康洋氏の画像

    髙塩康洋Takashio Yasuhiro

    TOTO㈱
    トイレ空間生産本部
    トイレ空間商品開発部
    トイレ空間パブリック
    商品開発グループ
    たかしお・やすひろ/1980年栃木県生まれ。2005年に東洋大学大学院修了。同年TOTOに入社。15年よりトイレ空間生産本部。パブリックトイレのユニバーサルデザインにおける使用者の動作研究、商品の企画提案に従事。15年より多機能トイレの開発に携わる。新商品では、車いす使用者の利用動作と空間全体の寸法計画を担当。

  • 佐藤俊博氏の画像

    佐藤俊博Sato Toshihiro

    TOTO㈱
    衛陶開発第一部
    衛陶開発
    第二グループ
    さとう・としひろ/1989年福岡県生まれ、神奈川県育ち。2015年に名古屋大学大学院修了後、同年にTOTOに入社。TOTOサニテクノにて、大便器の成形工程に従事。16年より現職。新商品では陶器の性能とコンパクト化を担当。