2022年度も新型コロナウイルス感染症や国際社会の分断等、さまざまな制約の中での事業活動となりました。しかし、将来をにらみ、こだわり続けてきたTOTOらしいさまざまな取り組みが徐々に奏功してきた1年でもありました。コロナ禍でも手を止めず、2022年8月には、お客様の新たなニーズにお応えできる新商品を、トイレ、洗面化粧台、キッチン、浴室の主要な水まわり空間すべてで一斉発売しました。プロモーションにあたっては、媒体の特性に合わせて表現を創意工夫し、新たな商品価値を訴求しました。「豊かで快適に過ごしたい」というニーズの高まりは、今後も継続していくと考えており、これからもこの「TOTOらしさ」をさらに進化させていきます。
この新商品の中のシステムキッチン「ザ・クラッソ」は、国際的に権威のあるデザイン賞「レッドドット・デザイン賞2023」を受賞し、さらに全応募アイテムの2%未満にしか与えられない最優秀賞である「ベストオブザベスト」に国内キッチン設備で初めて選出されました。システムキッチンの本場である欧州で評価されたことは大きな意味があると考えています。加えて、海外向けの 新商品であるウォシュレット一体形便器「ネオレストWX」は「レッドドット・デザイン賞2023」 および「iFデザイン賞2023」のダブル受賞となりました。
また、1980年6月に発売を開始した「ウォシュレット」の累計出荷台数が、2022年8月に6,000万台を突破しました。1,000万台を突破するまでは20年近くかかりましたが、それ以降の1,000万台ごとのタームは短くなってきています。海外の比率も伸び、海外の出荷台数は、この10年で 約5倍に伸長しています。「ウォシュレット」は、日本の生活文化を変えた商品であり、今後もさらなる進化を通じて、きれいで快適なトイレ文化を世界に広げていきます。
2023年3月にドイツ・フランクフルトで開催された世界最大規模のバス・トイレ・ビルディング・冷暖房・空調・再生可能エネルギーの国際見本市「International Sanitary and Heating 2023 (以下、ISH)」では、最も注目の集まる単独会場「Forum0(フォーラム ゼロ)」に初めてブースを出展し、大盛況の内に終えることができました。
欧州市場には、200年以上の歴史を持つ企業が多く存在し、私たちは後発企業です。その中で 今回、展示会場の「顔」となる場所「Forum0」に欧州トップブランド以外で初めて出展できたことは名だたる欧州のトップブランドと肩を並べ、TOTOブランドのグローバルにおけるポジションの 変化として大きな意味がありました。
新領域事業と位置付けているセラミック事業においても、事業体制を強化したことで、急速に拡大する半導体需要にTOTOグループの高いセラミック技術で応えることができました。これまでに 積み上げてきたことが成果につながってきており、セラミック事業においても「世界中にTOTOファンを増やしていく」ことは順調に進捗しています。まさにTOTOグループにとって日本住設事業・ 海外住設事業に続く「第三の柱」に成長しています。
TOTOグループには、初代社長から二代目社長に送られた書簡「先人の言葉」があります。「どうしても親切が第一、良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体で、その実体を握り得れば、結果として報酬という影が映る」という考え方です。この「先人の言葉」は、代々の社長に受け継がれ、大切にされてきました。この言葉は、社員全員が知っています。私の社長としての言動が、書簡に基づいているのかを社員全員から常に見られているという意識を持って自らを顧みています。
「先人の言葉」に基づき、将来にわたる企業活動の基調となるものとして、1962年に「社是」が 制定されました。そして今の時代にふさわしく、さらにTOTOグループで共有できるように「企業 理念」「企業行動憲章」を制定し、2004年に「TOTOグループ経営に関する理念体系」が整備され ました。
私たちの先輩は、常にこの理念に基づいた行動をとり、背中を見せてくれました。上司や先輩、 仲間たちと行動をともにし、日々の事業活動の中で体感することで、理念は社員一人ひとりに浸透しています。企業理念は、知っている・覚えているという概念ではなく、そういう行動をとることが当たり前であるという企業風土になっているのです。
いかなる環境にあっても、「どうしても親切が第一」というプライオリティを変えることはありません。変化する環境の中で、何を大切にしなければいけないのか、社員一人ひとりが腹落ちできています。一人ひとりが自分なりに、「どうしても親切が第一」に基づき、社会のため、お客様のために、部門や国・地域を超えて行動できることがTOTOグループの最大の強みです。
2022年度も世界的なサプライチェーンの分断により主力商品の受注停止や納期乖離を起こすなど、お客様に多大なご迷惑をおかけしました。ただ、そのような環境の中でも、最善は尽くせたと思っています。流通や現場を調整してお客様に寄り添い続けた販売部門、サプライチェーンの崩れを立て 直した調達・物流部門、自主的に工場に泊まり込んで操業を続けてくれた海外工場を含む製造部門、最前線をサポートし続けてくれた間接部門など、すべての部門がお客様のために、そしてTOTOグループで働く仲間のために行動してくれました。いかなる環境下においてもTOTOグループの存在意義は、企業理念を実践すること、どうしても親切を第一に、社会やお客様を思い行動すること、それを 社員全員が共有しているがゆえに一丸となり、TOTOブランドの信頼を守ることができたと思っています。
「グループ共有理念」は、私たちの「心」の部分として、未来永劫、将来にわたって引き継いでいくもの、持ち続けていかなければならないものです。一方でさまざまな環境変化に対して、「体の動かし方」は変えていかなければなりません。TOTOグループは、2021年4月に新共通価値創造 戦略 TOTO WILL2030(以下、WILL2030)を策定しました。2050年カーボンニュートラルで持続可能な社会の実現を、そして、すべての人に快適で健康な暮らしをご提供することを目指し、 社会課題、環境課題を解決しながら経済的成長を実現していきます。そのために、2030年に企業理念を体現していくための取り組むべき重要課題であるマテリアリティ「きれいと快適」「環境」 「人とのつながり」を全社一丸で極めていきます。また、この活動を通じ、SDGsにも貢献していきます。社会的価値と経済価値を別々のものと捉えるのではなく、社会課題・環境課題を事業で解決することで、経済的成長を果たしていく「サステナビリティ経営」を推進していきます。
地球環境を持続可能な形で引き継ぐのは私たち世代の使命です。カーボンニュートラルの実現に向けて、「スコープ1」における燃料転換の推進や「スコープ2」における再生可能エネルギー活用のさらなる拡大、「スコープ3」では、きれいで快適かつ環境に配慮したTOTOらしい商品であるサステナブルプロダクツのさらなる普及拡大などの取り組みを加速していきます。TOTOグループ員一人ひとりがWILL2030推進のプレーヤーとして、実践・共感・参加する全社一丸の取り組みを推進していきます。
足元の市況は依然不透明で、想定外の環境変化は今後も起こり得ます。その中で2023年度はWILL2030のSTAGE1仕上げの年として、事業軸、革新タスク軸ともに、掲げた重点課題の解決と目標達成への意志の強さが試される1年となります。2030年、2050年の目指す姿を見据えながら、STAGE2、STAGE3をにらみ、ものづくりや販売、開発、人財等、あらゆる面で積極的に投資や仕込みを行っていきます。
会社は、個の集合体です。TOTOグループであれば、約3万6,000人の個が集合体となって大きな力を発揮しています。個の能力向上がそのまま会社組織の能力向上につながっていくため、個の能力を向上させていくことは非常に重要です。
2023年4月にTOTOグループに232人の新入社員が入社しました。社内報のある企画で、新入社員全員に「一番言われて嬉しい言葉は?」というアンケートを実施しましたが、多くの新入社員が「ありがとう」という言葉を答えていたことが印象的でした。
周りから認めてもらいたいという想いは誰にでもあります。併せてそれが「ありがとう」という言葉になって戻ってくれば、よりモチベーションが上がるでしょう。日々の仕事を通じて、「ありがとう」と上司や周りが声をかけてくれたり、認めてくれたりすると、圧倒的にモチベーションが上がって、次の行動への動機付けになります。その動機付けがもう一つ上の目標を掲げて、それに対して頑張ろうという気持ちになり、その目標が達成できたら、自己実現に対しての満足感が得られ、 また次へとつながっていきます。これが、成長のスピードを上げていく重要なポイントで、社員たちにそういう機会をたくさん与えることが、会社組織の成長につながっていくと信じています。
また、高いモチベーションを持ち続けていくためのもう一つのポイントは、仕事が他人ごとではなくて自分ごとになったときに、間違いなく一層踏み込んだ行動ができるようになるということです。例えば、私たちが掲げている3つのマテリアリティについても、「取り組むべき課題」として捉えるのではなく、「取り組みたい課題」というように自分ごとと捉えて行動するのでは、全く違ったものになります。社員全員が「取り組みたい課題」と思うようになれば、間違いなく一人ひとりのやる気やエネルギー量が大きくなっていきます。そうなると、私たちTOTOグループ全体のエネルギー量は非常に大きくなり、社会課題の解決に向けたスピードも一層上がっていき、もっとお客様や 社会のお役に立てる会社になれると確信しています。
一人ひとりが少し先のことを考えて、もう一つ、もう一歩社会のことを、お客様のことを思って 行動できる集団をつくっていきたいと思います。
ここ数年間のさまざまな制約が緩和されたことで、ようやく動けるようになり、リアルで現場を訪問し、社員と直接意見を交換できる頻度も増えてきました。またオンラインによる社員との対話も継続しています。
社員たちは、各々の現場で起こっていることに対する課題感を持っていて、それに対してこのように取り組んでいきたい、こんなチャレンジをしたい、という気持ちを持っています。さまざまなことに対して意見交換を行っていますが、現場や現実に基づき、考え抜いた提案であるなら絶対に否定はしません。社員を後押しすることで彼らの動機付け、モチベーションにつなげていくように話を 積み重ねてきています。結果、私が要求するよりも先に動けるようになった事例も多く出てきており、社員一人ひとりが社会やお客様のことを考え、具体的に行動することが当たり前であるといった集団に近づいてきていると思います。社員が動き出すきっかけをつくることが私の責務だと思っています。
新たな価値創出のための欠かせない要素として、デジタル技術の活用を掲げ、すべての事業活動のベースと位置付けています。デジタル技術はTOTOグループだけに与えられたものではありませんので、これを強い武器にできるか否かで優勝劣敗が分かれます。一番のポイントは、これをいかに社会にとっての、お客様にとっての新たな価値に結び付けられるかです。TOTOグループの強みである既存技術にデジタル技術を融合させ、社会課題と向き合った提案を続けるとともに、社外とも積極的に協業しながら新たな生活価値創出を目指していきます。
ものづくりの現場についても、さらなる「良品と均質」を目指し、工場のスマートファクトリー化を一層加速させていきます。データサイエンティストも育ちつつあります。その人財を核にして、ものづくりのすべての現場でAIを活用し、効率を高めていきます。もちろんデータはものづくりの現場だけでなく、販売・サービス・間接部門の現場にも多数ありますので、すべての部門で展開していきます。
研修だけでなく実践の中で、全社員のITやDX(デジタルトランスフォーメーション)のリテラシーを向上させ、業務スピードを上げていきます。
私たちの事業活動は、ステークホルダーの皆様に支えられ、協業しながら成り立っています。まず、私たち自身が感謝の気持ちを持って誠実に向き合っていかなければならないということが原点です。WILL2030で掲げたマテリアリティの一つ「人とのつながり」において、各ステークホルダーの皆様と真摯に向き合い、それぞれの皆様の価値向上に努めていきたいと考えています。
お客様へは、きれいで快適な商品だけではなく、サービス面でも寄り添う活動を強化し、生涯 TOTOファンでいていただけるよう努めていきます。株主の皆様には、配当などをしっかり還元しつつ、非財務情報等もご提供しながら、より深い対話を通じて、信頼関係を高めていきます。お取引先様とは、より強固なパートナーシップを構築し、環境や人権への取り組みなどの目標をともに 定めて推進し、共存共栄を目指していきます。地域社会の皆様へは、私たちの活動によりご賛同いただけるよう事業活動以外の取り組みも一層強化していきます。そして何より社員です。全員が 安心してチャレンジでき、イキイキと働ける環境を作り、高い組織力と人財力を実現していきます。
企業価値の最大化を図るべく、守りだけでなく攻めも意識したガバナンスをますます強化し、すべてのステークホルダーの皆様の価値を向上させ、より良い関係を進化させていくことが、私たちの使命です。社会のために、お客様のために、全社員が心を一つにして、明るい未来を切り拓いていきます。
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