旅のバスルーム 104

浦一也の「旅のバスルーム」
ベトナム・ハノイ
メトロポール

エージングいっぱいのゲストルーム

文・スケッチ/浦一也

  • オペラ座正面に至る道。ハノイは緑が多い。

  • ドンディス・サインプレート。長さは450㎜もある。

  • バスルームはリノベーションされているが、各所の両開き建具などにフランス風が残る。

 およそ最近新しくつくられたホテル建築などは出来上がったときが一番美しく、だんだんみすぼらしくなっていく。つまり経年で味が出てくるような「エージング」を期待できないだろうというものがほとんどであり、時間は空間づくりのテーマになっていない。
 ノイバイ国際空港から車で40分。ホアンキエム湖周辺、増田彰久さんの写真集(*1)でよく見たイエロー・オーカー色(*2)に塗られたコロニアル建築が多いフランス地区。まぶしいほどの白亜のホテルに到着。夕刻になるとクリスマスが近いせいでイルミネーションがいっぱいに飾られ、それをバックにウエディング姿のカップルが何組も撮影をしている。
 1901年創業というから帝国ホテルのライト館より古い。インドシナ半島では最高級コロニアル・ホテルの代表格として歴史がある。フランスが敗北してベトナム撤退となったディエンビエンフーの戦い、日本軍の進駐、アメリカとのベトナム戦争などを経験し、それらが綴られた書を繰るだけで数日を要するほどだ。ロビーには壊れた食器まで展示されている。開業当時の写真を見ると、ホテルにはマンサード風の屋根がのっていたことがわかる。
 皿を壁面いっぱいに並べた少し薄暗いフロント・レセプションでチェック・イン。オペラ座側ではなく、公園に面したヒストリカル・ウイングに投宿。
 飾り卓にデスク照明が並ぶ客室廊下は、設備点検扉まで厚い南洋材の木でできていて重厚。塗装もほとんど全艶。
 ここは各室バルコニー付き。部屋の天井高は3mを超え、天井ファンがコロニアル建築らしく気だるくまわる。ドレーパリー・カーテンなどウインドー・トリートメントは正統。キーこそカードキーになっていたが、木のドンディス・サイン(*3)は大きい。家具の取っ手など建築金物もいろいろおもしろい。手の跡を感じる。ベッド足元には小ぶりのカウチ。何度も改装されたと思われるが使い込まれたそこかしこに美しさと安心感が漂う。年月のなせる業。
 比較的新しいバスルームにはFRPの大きなタブと一面の鏡。アメニティはエルメス。ワードローブもそうだが、カフェカーテン付きの両開きドアがフランス的。
 ホテルの中庭ではノンラー(*4)と呼ばれるたくさんの笠でつくられた大きなクリスマスツリーの下で、少数民族の女性たちが精緻なステッチやろうけつ染めの布地を売る店を出していて、つい買ってしまう。
 さて、黄土色の建物や市場を見て歩き、旧市街でバイクの洪水に身を投じて、おいしいフォー(*5)やブンチャー(*6)などを求めて探し歩くとするか。

   

*1 『建築のハノイ ー ベトナムに誕生したパリ』(写真/増田彰久、著/大田省一、白揚社)
*2 Yellow ocher:フランス南部の建物に多く塗られた酸化鉄の黄土色塗料。フランス語ではオークル。
*3 ドンディス・サイン:ゲストルームの外側に下げるドアサインプレート。DO NOT DISTURBのサイン。
*4 ノンラー:ラタニアの木の葉でつくった円錐形のベトナムの帽子。
*5 Pho:米粉でできたベトナムの麺。あっさりした出汁につみれ、パクチーなどをのせて食べる。
*6 Bun Cha:つくねや焼いた豚肉などの鍋を「つけめん」のようにして食べる。野菜もたっぷり。

Sofitel Legend Metropole Hanoi
Add 15 Ngo Quyen Street, Hoan Kiem District, 10000 Hanoi, VIETNAM
Phone +84 24 3826 6919
URL http://www.sofitel.com/gb/hotel-1555-sofitel-legend-metropole-hanoi/index.shtml
Profile
浦一也

Ura Kazuya

うら・かずや/建築家・インテリアデザイナー。1947年北海道生まれ。70年東京藝術大学美術学部工芸科卒業。72年同大学大学院修士課程修了。同年日建設計入社。99〜2012年日建スペースデザイン代表取締役。現在、浦一也デザイン研究室主宰。著書に『旅はゲストルーム』(東京書籍・光文社)、『測って描く旅』(彰国社)、『旅はゲストルームⅡ』(光文社)がある。

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